未来ドロボウ、恋人製造法……『藤子・F・不二雄 少年SF短編集』にこめられた教訓を考察
恋人製造法
好きな女の子を遊びにも誘えない気弱な少年・内男が、ある日円盤(UFO?)に乗った老人を助け、そのお礼でもらった機械で、好きな女の子そっくりのクローンを作る、というストーリー。
内男は思いを寄せる毛利麻理の髪の毛をなんとか入手し、無事クローン人間を作ることに成功する。しかし、生まれてきたその子はまるで生まれたての赤ちゃんのようなクローンだった。何もできない彼女に、ご飯を食べさせたり、着替えさせたりと、まさに子育て体験をしていく内男は「友だちが欲しかったのに…これじゃ親子だ」と呟く。
その後、赤ん坊からどんどん自我が芽生え、なぜ自分は他の子と違って窓から姿を見せたり、外を出歩いたりしてはいけないのか?と疑問を持ち始める。内男は、円盤の老人からも「コピー人間にも人権はあるんだぞ」などと言われる中、彼女の将来を考え、自分のクローンと一緒に宇宙へ連れて行く決断をするのであった。
ここでのポイントは、少年自身が少女クローンと共に宇宙に行くのではなく、彼女と自分のクローンを旅立ちさせる点だ。内男は、自分の言うことをなんでも聞くクローンと一緒に行くのではなく、現実世界に残ることを選ぶ。
ラストカットで、宇宙へ旅立つ円盤を見守りながら内男が呟いたセリフは、「夢物語や自分勝手な願望の中ではなく、現実世界を生きて行く」という、一段大人の階段を登った主人公の静かな決意となっていた。
『ドラえもん』でも、「のろいのカメラ」や「デビルカード」といったひみつ道具が、思わぬ形で悲劇を招いてしまう回が存在する。ほんわかした作品に潜む狂気に魅了される読者も多いのだ。そんな恐怖にも似た感情に酔いしれたい方にこそ、ぜひ藤子・F・不二雄氏のSF短編集を手にとってもらいたい。