【連載】『ガンダムZZ』は“見なくていい”作品なのか?
『ガンダムZZ』“大人の道理”と“悪ガキたちの道理”のコンフリクトをどう収束させる? 第13話「妹よ!」に感じる挑戦の難しさ
多くのファンを抱える『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて、何かと不遇な『ガンダムZZ』。はたして本当に“見なくていい”作品なのか? 令和のいま、ミリタリー作品に詳しくプラモデルも愛好するライターのしげるが、一話ごとにじっくりレビューしていく。
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【連載第一回】第一話から「総集編」の不穏な幕開け
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第十三話 妹よ!
[あらすじ]
ラビアンローズに係留され、グラナダからの補給を受けつつ改修を待つアーガマ。その艦内では、妹のリィナを誘拐されたジュドーがいきりたっていた。ジュドーがリィナのために飛び出すのを防ぐべく、ブライトはビーチャらジュドーの仲間たちにジュドーの監視を頼む。
ジュドーはノーマルスーツを盗み出し、トイレから取り外したパイプを使ってZZガンダムの強奪を企む。ジュドーがトイレで準備をしているところにエルが出くわし、さらにブライトもトイレに入ってくるが、ジュドーとエルは盗んだノーマルスーツを個室に隠すことで危うく難を逃れる。
一方、ビーチャとモンドはアーガマからZZガンダムを持ち出すべく、ドッキングの練習と称してZZガンダムを合体させていた。そこにルーと言い争うジュドーと、ノーマルスーツを持ってきたエルが居合わせてしまい、ジュドーはノーマルスーツを奪ってZZで出撃しようとする。
そのころエンドラでは、誘拐されたリィナとグレミーが豪華な食事を取っていた。マナーにうるさいグレミーはリィナに食事に関する作法を教え込む。また、キャラとゴットンはダミー隕石を使った奇襲攻撃を考案。精神的に疲れると言いつつ、キャラはRジャジャで出撃する。
アーガマの食堂に閉じ込められたジュドーは、天井のダクトから逃げ出そうと画策。一方、ジュドー一人でリィナを助けに行かせるのを心配したエルは、火事を偽装して扉の鍵を奪い、ジュドーと共に逃げ出すことに成功。エルはジュドーを止めようとするルーをガンダムMk.Ⅱで追い払い、イーノの協力でジュドーのZZと共に出撃する。しかし、ZZにはビーチャとモンドも乗っていた。
エンドラを目指すZZとMk-Ⅱは、ダミー隕石を曳航するゴットンのガザCと、キャラのRジャジャと遭遇する。ゴットンはアーガマ用だったダミー隕石を起爆させ、秘密兵器の「蜘蛛の巣爆弾」を展開する。
蜘蛛の巣爆弾を掻い潜りつつ、ゴットンのガザCと交戦するジュドー。しかしジュドーは戦いの中で、リィナが自分の妹だと口を滑らせてしまう。ZZのパイロットの妹を人質に取っていることに気づいたゴットンは「リィナをカタパルトデッキに引き出して人質にする」という作戦を命令。グレミーはゴットンにMk-Ⅱのパイロットが誰か聞き出すよう命令し、因縁のあるルーがMk-Ⅱに乗っていると早合点してリィナを人質に利用する。
リィナを人質に取られたことに気づいたジュドーは激しく葛藤するが、その時脱出を焦るビーチャによってZZは変形させられてしまい、混乱の中エルの攻撃でゴットンの機体が破損。リィナに加え、ZZの変形前後のどさくさでビーチャとモンドもエンドラに囚われてしまう。仲間がさらにエンドラに囚われたことも知らず、ジュドーはリィナ奪還の決意を固めるのだった。
“戦争の理屈”と“悪ガキたちの理屈”
「跳ねっ返りの少年たちが、軍艦に乗って戦争の最前線で活躍する」というストーリーでこれまで進んできた『ZZ』だが、今回も基本的にはその筋で物語が展開する。驚くべきはビーチャとモンドの諦めの悪さで、今回もZZガンダムを強奪しようとしたり敵に売り飛ばそうとしたりと、相変わらずの悪童ぶりを見せつける。
正直このあたりでシャングリラの子供たちが、ブライトらアーガマの大人たちと折り合いをつける展開があってもいいのでは……と思わなくもないが、この「悪ガキが悪ガキとして暴れ回り、大人の道理をぶち壊す」というポイントが『ZZ』の持ち味でもある。しかし、ここ数話の展開を見ていると、悪ガキと大人の道理のコンフリクトをどう収拾したものか考えあぐねているようにも見え、やはり新しいチャレンジとは難しいものなのだな……と感じさせられる。
戦争というのは大人の道理で動くものであり、筋を通して描写しようと思えば思うほど、暴れ回る悪ガキの理屈は後方に追いやられざるを得ない。それを避けるために初期の『ZZ』では悪役のマシュマーがコミックリリーフ的な立ち位置でジュドーたちの前に立ち塞がったわけだが、すでにアーガマはシャングリラを出て宇宙でネオ・ジオンと激突している。状況は彼らの育ったテリトリーを離れてより本格的な戦争に移行しており、にも関わらず悪ガキたちを活躍させようとすれば、戦争の理屈と悪ガキたちの理屈の間でコンフリクトが起き、物語は破綻してしまう。『ZZ』のストーリーは早晩どちらかを選択せねばならず、今回はそんな座りの悪さを感じさせる部分が多い。
例えば、急にガンダムMk-Ⅱのコクピットに乗ったエルがいきなり実戦に参加し、そこそこモビルスーツを操縦できてしまう点である。適当にやるならば、「以前シャングリラで乗ったことがある」とか「見ていて覚えた」とか、理屈の立て方はあったはずだ。これまでの『ZZ』の内容を考えれば、それでも通るような気もする。
が、今回エルがガンダムに乗れるようになった理由は「頑張って急いでマニュアルを読んで覚えたから」である。分厚いマニュアルという生々しいアイテムを出してしまったことで、見ている方には「そんなに厚い説明書、それもモビルスーツみたいなめんどくさそうな機械の説明書がこんなに短時間で理解できるのか?」という疑念が湧いてしまう。一応本編の最後に「ジュドーとエルはニュータイプだからこれだけ短期間でモビルスーツの操縦に習熟できたのでは」という話は出てくるのだが、それならそれでもっとニュータイプであることをわかりやすく演出することもできたのではないだろうか。
つまり、今回は「分厚いマニュアル」という現実的で「リアルな戦争」「大人の論理」を感じさせる要素と、「いきなりモビルスーツを強奪して命令無視で暴れ回る悪ガキたち」という非現実的でリアルな戦争からは距離のある要素が、同じ皿に盛られて出てきてしまったのである。これは飲み込むのがなかなか難しい。ジュドーたちが元気に暴れ回れば暴れ回るほど、ガンダムシリーズが3作の中で積み上げてきた戦争SFとしての側面がノイズになって感じられるのだ。一旦立てた「元気な悪ガキたちのガンダム」というテーマゆえに発生したこのコンフリクトをどう解決していくのか、そこも『ZZ』の見どころだろう。