【漫画】空からポツリと雨粒……と思いきや? シュールなWeb漫画『う・わ・の・そ・ら』に反響

ーー不思議な現象、普段目にすることの少ない視点から描かれる日常の景色に新鮮さを感じた作品でした。本作を創作したきっかけは?

津村根央(以下、津村):本作は小説『コルタサル短篇集 悪魔の涎・追い求める男』(岩波文庫)から着想を得て描いた作品です。“斬新な実験性と幻想的な作風”という紹介に惹かれて読んだのですが、それにくわえて表題作の“悪魔の涎(よだれ)”という言葉が面白いと思って、読む前に色々と想像してたんです。

 ところが、この本には実際に悪魔が涎を垂らすシーンは描かれていなかったので、自分が想像していた悪魔の涎が登場する話を描こうと思いました。

ーー本作の構図などから“実験性”を感じました。

津村:漫画を描く際には自分が美しいと思える構図にしたいと思っています。本作では上から見下ろす視点と下から見上げる視点によって主人公の頭上に読者の意識が向かうように工夫しました。

ーー構成やコマ割りなどを考えるなかで意識していることは?

津村:作品のプロットをつくる際、自分の中にあるリズム感と合うように物語の構成を考えています。自分は映画が好きなので、2時間ほど上映される映画のテンポ感や空気感をイメージしながら、少しゆったりとした速さで物語が進んでいくことを意識しています。

 また背景や物を描くことが好きなので、人物だけのコマが続かないようにしています。

ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンは?

津村:上から降る水滴の正体である悪魔が登場するシーンです。最初から悪魔が涎を垂らす展開は決まっていたため、悪魔を登場させるにあたり、思わず涎を垂らしてしまうような間抜けでユーモラスな悪魔を描きたいと思っていました。そのため悪魔が登場する場面は印象深いです。

ーー水滴の正体が判明し、主人公を映すカメラが少しずつフェードアウトしていくような構図で描かれたラストシーンが印象に残っています。

津村:たとえば悪魔と主人公が言葉を交わすような結末もあり得たかと思います。ただ自分は不思議な出来事が日常の粗末な出来事と同等なワンシーンであることが面白いと思っていて。

 2人は邂逅することなく、悪魔は消えてしまい、主人公は涎を垂らす。静かな日常の延長線上に悪魔との出会いがあることを表現したいと思いながら本作のラストシーンを描きました。

ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。

津村:20歳くらいのころに友人からコミティア(一次創作物の即売会)に出ないかと誘われ、はじめて漫画を描きました。そこから個人でもコミティアに参加するようになり、今でも漫画を描いています。

 昔からどこか間抜けで不条理なものが好きで。漫画を描きはじめてから自分の好きなものを表現したいという気持ちがつよくなり、間抜けで不条理なものを生み出すことが漫画を描くモチベーションになっています。

ーー影響を受けた作品や作家は?

津村:旅行のエッセイなどを書いている宮田珠己さんの作品が好きです。巨大大仏やベトナムの盆栽など、独特なものを取り上げてエッセイを書いている作家さんで、一般的にあまり着目されないものを取り上げるという着眼点の面白さ、ユーモラスで少し可笑しさも感じる語り口に魅力を覚えます。

 漫画家だと坂田靖子さんの作品も好きです。日常でありつつもファンタジーのようにも思える独特な世界観、可愛く間抜けなキャラクターや画のタッチが魅力的に感じます。

ーー今後の活動について教えてください。

津村:ちょっと間抜けで不条理な漫画を描き続けていきたいと思います。具体的な活動として現在は祥伝社さんで掲載するための読み切り漫画を準備しており、Webサイト『ジモコロ』さんではリサイクルショップを巡る漫画が掲載予定です。

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