追悼・寺沢武一『コブラ』は漫画表現の新時代を切り拓いたーースタイリッシュな画風×SF的なアイデアで一世を風靡
漫画表現で新時代を切り拓き、次代へとつなげた寺沢武一は一方で、マンガのデジタル化という方面でも、先駆者として活躍した。1980年代の半ばに、手書きの原稿をスキャンしてコンピュータ上で彩色することを始めて、漫画制作のワークフローをデジタル化する道を作った。
今では誰もがタブレットで漫画を描き、コンピュータ上で彩色して完成原稿をメールで送っている。そうした当たり前のワークフローに、コンピュータの性能が今とは格段に違っていた1980年代から取り組んだ進取の気風が、作品にも反映されて時代を超えて愛され続けたのかもしれない。
漫画作品のデジタル・パブリッシングでも先駆的な活動をしていた。1996年という時期に『Black Knight BAT』をフルカラー化した上で、インターネットのウエブサイト上で連載し、後にCD-ROMで“刊行”した。画像1枚をネット上で開くのも大変な時代で、ましてや漫画をネットやで読むなんてと思われていた時代だったが、いずれ来る大容量通信の時代を見越していち早く取り組んだのだろうか。
コンピュータのようなデバイス上で漫画を読む習慣も乏しい時代だった。今では誰もがスマートフォンで漫画を読んでいる。『Black Knight BAT』ではまた、日本語版だけでなく英語版も用意して、漫画のグローバル化を後押しした。インターネットが普及すれば、漫画を読むのに場所も国境も関係なくなるといった思いから、こうした施策に取り組んだのだとしたら実に開明的だ。その後を追うようにして日本の“MANGA”が現在、世界を席巻している。
もしも今、世界で大絶賛されている『ONE PIECE』の実写ドラマシリーズのように、最新の技術と豊富な資金で『コブラ』が実写ドラマシリーズ化されたら、どのような作品になるのだろう。きっと漫画やアニメから抜け出してきたようなスタイリッシュでグラマラスな役者たちの活躍が見られるに違いない。ただ、そこに寺沢武一の監修は入らない。TVアニメ『スペースコブラ』でコブラを演じた野沢那智の声も吹き替え版には乗らない。
だとしたらやはり、ありのままの漫画を見てその偉績を振り返るしかないし、アニメを見て生きているコブラに触れるしかない。アニメには『スペースアドベンチャーコブラ(劇場版)』もあって、歌手の松崎しげるがコブラ役を演じてこちらもこちらで良い味を出している。昨年末に公開40周年を記念して劇場上映されたが、改めて追悼上映などされて欲しいものだ。