『SLAM DUNK』井上雄彦、バスケW杯に対して貫いた“現場へのリスペクト” SNS投稿が示すバスケットマンの矜持

井上雄彦、バスケW杯で貫いた立場

 沖縄市で開催されたワールドカップで劇的な勝利を重ね、アジア最上位&2024年パリ五輪への出場権を獲得した、バスケットボール男子日本代表。実に48年ぶりとなる自力での五輪出場(※2021年東京五輪に開催国として出場している)を決めた快挙とともに、漫画、アニメ、映画にアメリカ留学に向けた奨学金制度まで、バスケ業界を盛り上げることに大きく貢献してきた『SLAM DUNK』作者・井上雄彦氏にも注目が集まっている。

 新世代のスターPG・河村勇輝がスピードで相手チームをかき乱せば宮城リョータ、比江島慎や富永啓生が3P連発で三井寿に、そして大逆転勝利は山王工業戦……と、様々なシーンが『SLAM DUNK』の名場面に例えられ、会場ではアニメ版/映画版(『THE FIRST SLAM DUNK』)の主題歌『第ゼロ感』が流れる。さらに、1992年に発売された単行本9巻で井上氏が、「本作を読んでバスケを始めた子どもたちが、悲願である五輪出場を決めてくれたら……」という趣旨のコメントをしていたことから、その夢、あるいは予言が実現したと、SNS上で大きな話題になった。

 実際、多くの日本代表選手たちが『SLAM DUNK』のファンであることを明かしており、直接的に「バスケを始めたきっかけ」でなくても、大きな影響を受けたと語っている。

 NBAGリーグで奮闘を続けている馬場雄大はパリ五輪出場を決めた試合後、会場で井上氏とハグしている様子をX(旧Twitter)で公開し、「先生の一つの代表作である『バガボンド』もW杯肌身離さず持っていました。文字を通して先生から放たれる言葉にどれほど力を貰ったことか、、。」と、別作品にも助けられたことを語り、NBAで飛躍を続ける日本のエース·渡邊雄太も、8月24日発売の「週刊ヤングジャンプ」39号で、「全選手、全セリフを覚えているくらい、何度も何度も読んで」バスケに打ち込んできたとしている。

 直近で映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットもあり、今回のワールドカップでも、代表チームに次ぐ“主役のひとり”だったと言っていい井上氏。しかしSNS上での発信は、言葉少なに試合を盛り上げ、ただ応援し、チームを称賛するという、「いちバスケットボールファン」と同じ目線のポストを貫いていたことが印象的だ。

 井上氏は会場で選手たちと交流したシーンも投稿していなければ、自分から「『SLAM DUNK』連載時からの夢が叶った!」と語ることもない。バスケ業界への貢献は誰が見ても極めて大きく、我がことのように誇っていい立場にいるようにも思えるのだが、一歩引いて現場で奮闘している人々を讃えているように見える。

 日本代表の快挙に沸いた直後、井上氏がポストしたのは、10月5日に開幕する「Bリーグ」の日程だった。ワールドカップの盛り上がりを一過性のもので終わらせず、国内リーグに目を向けてほしい。本人の言葉はまったく添えられていない投稿から、そんなメッセージが伝わってくる。バスケットマンとしての矜持を胸に、真摯に競技シーンと向き合い続けるレジェンド・井上雄彦は、今後もリスペクトを集めていくだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる