『風の谷のナウシカ』原案にあった終末論はなぜ消えた? 宮崎駿の思想を受け継ぐ、庵野秀明による”続編”への期待
若き日の庵野監督が感銘を受けた宮崎駿の一言とは
だがその一方、『風の谷のナウシカ』の原案に強い感銘を受ける人物もいた。『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズで知られる庵野秀明だ。
ラジオ番組『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』での発言によると、『風の谷のナウシカ』の打ち上げの場で、庵野を驚かせる出来事が起きたという。宮崎が「人間なんてね、滅びたっていいんだよ!」「とにかくこの惑星に生き物が残ってれば、人間という種なんて、いなくなっても全然いいんだ」と語ったのを聞き、庵野は「この人すごい」と尊敬の念を抱くようになったそうだ。
さらに庵野は、そうした終末論的な思想がストレートに表現された原作『風の谷のナウシカ』の最終巻を絶賛し、「宮さんの最高傑作」とまで言い切っていた。
たんに共感するだけではなく、庵野は自身の作品において宮崎の終末論を受け継ぐような作風を披露している。たとえば『新世紀エヴァンゲリオン』における人類補完計画と碇シンジの選択は、きわめて“ナウシカ的”な表現と言えるはずだ。
そのことを本人も自覚しているようで、鈴木敏夫が「文藝春秋」に寄稿した『宮崎駿とヱヴァンゲリヲン 庵野秀明のナウシカ愛』という文章では、庵野が『風の谷のナウシカ』の続きとして『新世紀エヴァンゲリオン』を作っていると発言したことが明かされていた。
なお、長年『風の谷のナウシカ』には幻の続編として「ナウシカ2」の存在が議論されてきた。そこで監督としてよく名前が挙がっているのが、ほかでもない庵野だ。
シン・シリーズを完成させた今、庵野が宮崎の思想を受け継ぐ可能性はゼロではないかもしれない。そうなれば、『風の谷のナウシカ』の原案にあったニヒリズムと終末論を別の形で復活させることも考えられる。アニメ業界を牽引する師弟の未来に、いろいろと期待が膨らんでしまう。