日本のイラストレーションの歴史と重なる雑誌「季刊エス」「SS」展示会から見えた新たな版元「パイ インターナショナル」の展望

「季刊エス」「SS」展示会から見えた展望

事業承継を決めた理由とは?

パイ インターナショナルの出版物。主力は画集で海外に向けても販売している

――全国的に書店が減少し、紙の雑誌が縮小しつつある中、パイ インターナショナルさんにとっても「季刊エス」「SS」の事業承継は思い切った決断だったと思いますが。

三芳:悩みましたよ。ただ、伸びしろがあるとは感じたのです。我々は画集を出版してきましたが、雑誌をやっている出版社のような、作家との濃密なつながりが作りにくい。ゼロから本をつくりませんかと依頼するのと、雑誌というメディアがあって取材を経た上で依頼するのとでは、作家さんの印象も違いますからね。幸い、「季刊エス」「SS」はそれまでに培われた作家との信頼関係と、幅広いつながりがありますから、これを活かさない手はないだろうと。

――パイ インターナショナルさんにとってメリットが大きいわけですね。

三芳:「季刊エス」編集部と、書籍や画集の編集部共同で連載企画ができるかもしれません。雑誌の連載が書籍化され、海外に紹介されることもあり得るでしょう。私たちは、日本のクリエイターが生み出す素晴らしい作品を海外に輸出することに、大きな可能性を感じているんですよ。日本のあらゆる産業が衰退する中でも、漫画、ゲーム、アニメなどのコンテンツは未だに存在感を示せていますからね。「季刊エス」「SS」を当社が出版することで、日本文化の根幹になるエンジンを担えると自負しています。

展示会の見どころと展望

――「イラストフェスSP」は20年の歴史が詰まったエス編集部ならではの展示会です。見どころを教えてください。

友風子と博の原画を展示

天野:エス編集部の20周年なので、「季刊エス」「SS」と関わりの深い作家に協力してもらいました。漫画家やイラストレーターとして活動を始めた初期から取材している作家もいれば、もともと弊誌の読者の側だった人、イラストの投稿経験がある人もいます。それぞれの作家が弊誌との思い出を、文章やイラストで伝えてくださっているので、楽しんでいただければと思います。

――天野さんは今後、「季刊エス」「SS」をどのような雑誌にしていきたいですか。

天野:大抵のメディアは、作家が著名になってから仕事を頼むのが基本です。どこにおいても、注目されている人が起用されるもの。対して、私たちの雑誌は絵を描く人たちの始まりに立ち会っていることに存在意義があると思います。今やこういった媒体は他にありません。絵を描き始めたばかりの小学生や、初めて投稿してくれた人が、この先どんな絵を描いていくのかと、思いを馳せるのが編集者の楽しみでもあります。

  また、素晴らしい絵を描いているのに、なかなか理解されず、活動の場がない作家はいつの時代もいます。村田さんが印象深く語っていました。漫画的な絵をリアルに綿密に描き上げても、どこにも出す場がない。自分は何をやっているんだろう、と。今のイラスト界を築き上げた一人が、活動の初期にそう感じていたことは驚きです。でも、どこにも居場所がないということは、当然新しいわけですよね。そして、すぐに世に出ないということは、ずっと描き続けているわけですから、研鑽を積んでクオリティがあがる。エネルギーも溜まっていく。そういった作家こそ底力が大きく、パワーがあります。弊誌はそんな絵を応援していきたいと思っています。

  これまでイラストの歴史の中で、いろんな画風が新しいメディアとマッチングしてきました。ライトノベル、カードゲーム、MV…。それに応じて、イラストレーターの活躍の場は多彩になりました。それでも既存のメディアの枠に収まらない絵が常にあります。私たちは、そういった作品を見られる場を守っていきたいと思います。

――三芳さんはいかがでしょうか。

イラストメイキングやライブドローイングはイラストレーターのファンだけでなく、プロを目指す人々にとっても学びが多い機会だ

三芳:私たちは一貫して、“クリエイターのための出版社”を標榜してきました。「季刊エス」「SS」と一緒になることで、当社の事業の幅はますます広がることでしょう。雑誌と書籍の長所を上手く組み合わせて、世界中に優れたクリエイターを紹介する役割を担っていきたいと考えています。

『イラストフェスSP』開催情報

会期/2023年7月28日~8月6日
時間/12:00〜20:00 ※最終日は17:00まで
会場/デザインフェスタギャラリー EAST 101(東京都渋谷区神宮前3丁目20-2)
入場/無料
HP/https://www.s-ss-s.com/c/s_pie_sp
SNS/https://twitter.com/kikan_s_ss
参加予定作家/赤倉、浅田弘幸、Anmi、いわたきぬよ、上倉エク、okama、小岐須雅之、奥浩哉、加藤和恵、久米田康治、小林系、坂本眞一、佐倉おりこ、時雨、白身魚 、新房昭之、鈴木ジュリエッタ、竹内絢香、種村有菜、ためこう、茶々ごま、出水ぽすか、寺田克也、問七、中村佑介、夏目レモン、ねこ助、林田球、平尾アウリ、博、藤ちょこ、フライ、古屋兎丸、細田守、ホノジロトヲジ、マツオヒロミ、ミギー、水屋洋花・美沙、みひろ、碧風羽 、六七質、村田蓮爾、望月けい、やまもり三香、友風子、夢ノ内千春、夜汽車、米山舞、よむ、れおえん、ワダアルコ(敬称略50音順)

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