芳根京子、女優としての軌跡と進化を見せたデビュー10周年写真集「作品を通して積み重ねてきた表現力を試したかった」
6月17日、女優の芳根京子がデビュー10周年記念写真集『京』(ワニブックス)を発売した。本作は、2021年に公開された芳根の主演映画『Arc アーク』で監督・脚本を務めた石川慶による企画・プロデュースで制作されており、通常の本のように表紙からだけでなく、裏表紙からも始まる挑戦的な一冊となっている(ぜひ実物を手に取って見てもらいたい)。
2017年に発売されたファースト以来、約6年ぶりの写真集となった本作。撮影テーマは「女優の芳根京子と、女優の道を選ばなかった芳根京子が同時に存在していたら……」。女優として10年間を駆け抜けた芳根京子の“リアルな表情(かお)”と、女優とは無縁の社会で懸命に生きる“もう一つの表情(かお)”に感じる、共通点と相違点。10周年の節目に制作された思いとこだわりを、本人に聞いた。(とり)
10年続けてきたから挑戦できた一冊
——女優デビュー10周年、おめでとうございます! 本作は、その記念に制作されたとのことですが、そもそも、なぜ写真集だったのでしょう?
芳根:デビュー10周年という節目に、何か形になるものをつくりたいと思って。私から「写真集なんてどうですか?」と提案させていただいたんです。それまで、自分から写真集の話をすることもなかったし、私が「写真集をつくりたい」と言い出すなんて、周りの誰も予想していなかったと思うんですけど、「せっかくの機会だし、つくろう!」って、すぐマネージャーさんも賛同してくださって。
2017年に出させていただいたファースト写真集『ネコソガレ』(太田出版)は、朝ドラ(2016年下半期放送『べっぴんさん』)のヒロインが決まったときに「この1年は、女優として確実に記念すべき1年になるから」と、マネージャーさんの勧めでつくらせていただいた一冊でした。それも、10代最後の節目に出させていただいたんです。次にまた写真集を出すなら、何かの節目に、前作より成長した自分を撮ってもらいたいと思っていたので、今回、絶好のタイミングかなと。すぐに制作が始まりました。
——芳根さんご自身の発案だったのですね。かなり工夫の凝らされた一冊という印象ですけど、具体的に芳根さんがこだわったポイントは?
芳根:まず第一に、ファーストとは全くテイストの異なる作品にしようと決めていました。というのもファーストのときは、スタッフさんが用意してくださった衣装とロケーションで、特に何も考えることなく、ただ撮影をしてもらっていました。その、19歳から20歳を迎えるまでの自然体な私の姿を収めた“記録的な一冊”に対して、本作では、一枚一枚に緊張感を持って挑みたいと思ったんです。何もないスタジオでつくり込んで撮ってもらうことも、自分への課題としました。
10年間、ひたむきにお芝居を頑張ってきたと言える自負はありましたし、この記念すべきタイミングで形にするなら、あらゆる作品を通して積み重ねてきた表現力を試したかったんです。実際の撮影では、スタイリングやヘアメイクに助けられた部分もありましたが、一枚一枚、自分で写真を確認しながら、角度や表情を調整しながらベストショットを押さえていきました。
もう一つ、ファースト写真集では日記的な側面も強くて、文章が多く掲載されているんです。でも本作では、写真だけで“読ませる”ことを意識したので文字要素が一切ありません。だからこそ、みなさんにどう見ていただけるか、反応がすごく楽しみなんです。
——“写ること”にまっすぐ挑まれたんですね。やはり、この10年間で表現力にも自信がつきましたか?
芳根:10年続けてきたから挑戦できた一冊ではあります。自分で言っておきながら、中途半端な表現しかできなかったら何も残らない写真集になってしまうぞと、普段の撮影とは違ったプレッシャーも強く感じていました。「あれしたい、これしたいって、やるのは全部、自分じゃん!」って(笑)。その感じも、何だか楽しかったですけどね。
『Arc アーク』セリとの思いもよらぬ再会
——撮れた写真の中に、ご自身でも意外な表情はありましたか?
芳根:ありました! 本作は、映画『Arc アーク』でご一緒した監督の石川さんにプロデュースしてもらったんですが、「写真集の中でお芝居をしてみたいです」と話したら、本当にシナリオを書いてきてくださったんですよね。それをもとに撮影したのが、赤いワンピースを着ているシーン。そこで見られる笑顔のカットは、なぜか、私のようで私じゃない気がしました。
——それは、芳根さん自身として写っているようで、石川さんのシナリオの上で生きている、一つの役かもしれないと?
芳根:そうなんです。私は『Arc アーク』で、主人公・リナと、その孫娘・セリを演じさせてもらったんですけど、本作のために石川さんが書いてくださったシナリオというのが、まさしくセリの物語だったんです。作中では描かれなかった、セリのその後という内容で……。意識的にセリを演じていたわけではないですが、石川さんが描いてくださったそのシナリオがあったからこそ、セリの現在を思わせるような、私のようで私じゃない笑顔になったんだと思いますね。
——映画を観る側の感覚としては、好きな作品ほど、登場人物が今もどこかで生きているような、作中では描かれなかった未来のことまでを想像してしまいますが、演じる側の芳根さんにも、そのような感覚はあるのでしょうか?
芳根:役者としては、新しい役をいただくたびに、前に進んでいかなければならないのですが、演じた役に関しては、今もどこかに存在していると思ってもらえるようなお芝居を常に心がけています。ですから本作の表情にも、『Arc アーク』のその後を感じてもらえると嬉しいですね。
私自身も、セリを思いながら撮影することで「あ、今ここにいたんだ」「こんな感じで成長しているんだ」って、思いもよらぬ再会を果たした気分なんです。まさか写真集の現場でまた会えるとは。こんな体験、なかなかないですよね。