一見上手なラブコメ漫画、プロの添削でどう変わる? “キャラクターの掘り下げ”が物語を生み出すポイントに
各種アプリやウェブサービスの広がりにより“掲載”の場が拡大し、多くのクリエイターが世の中に漫画を届けることができるようになった昨今。「人気作家」への道は変わらず険しいものだが、SNSで創作漫画を発表して人気を獲得し、商業連載につなげたヒット作も続々と登場している。同時に、「独学」ゆえの悩みを抱えたクリエイターが少なくない状況だ。
そんななか、YouTubeチャンネルで視聴者から作品を募り、プロが「添削」を行う動画が人気を集めている。そのトップランナーといえるのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏だ。解説のわかりやすさ・的確さとともに、あくまで相談者の個性に寄り添ったアドバイスが心地よく、自分では漫画を描かない人も楽しく視聴することができるのが特徴。視聴者からの信頼が厚く、チャンネル登録者数は15万人を超える。
最新の添削動画は、「【漫画添削73】ストーリーができる仕組み〜プロ漫画家が教えます〜」と題されたもの。タイトルの通り、ストーリー作りのポイントがわかりやすく解説されている。
今回取り上げられたのは、プロの漫画家を目指して持ち込みに行ったところ、「絵の勉強より話作りに専念したほうがいい」と言われたというArcさん作品。「話作り」と言っても具体的にどうすればいいかわからず、作画も構図が単調になりがちだという悩みを抱えているそうだ。
添削されたのは、ヒロインに「付き合うのに何が必要か知ってる?」と訊かれた主人公が困惑するという、ラブコメのワンシーンだ。ハイド氏はいつものように、まず作品の「いいところ」を評価。絵が可愛らしく、男の子も女の子も魅力的だ。ハイド氏は「男性読者にも、女性読者にも好かれそうな絵柄をしていると思います」と語り、「このページだけ見て二人の初々しさがわかる」と、“ラブコメ感”がしっかり伝わってくることも評価していた。若い作家にしか出せない、青春の空気感があるという。
それでは、さらにステップアップするにはどうすればいいのか。ハイド氏は自らペンを取り、ネームを引き直していく。詳しくは動画を確認していただきたいところだが、まず初心者向けのポイントとして解説したのが、「顔の大きさ」だ。言われてみると、元の作品はどのコマも顔の大きさがほとんど均一で、画面の動きが少なく見える。ハイド氏はこれまでも、「1ページの中に大・中・小の大きさの顔を入れる」ことを指摘しており、今回の添削でも、引きの絵からドアップまで、主人公とヒロインの顔をさまざまな大きさで描き分けている。そこのとで画面がダイナミックになり、明らかに読み応えがアップしている。
その後も多くのポイントを押さえた上で、Arcさんの悩みである「話作り」のポイントが提示される。ストーリーはどうして生まれるのか。それは「キャラクター(人間)がいるから」だと、ハイド氏はいう。漫画は基本的に、キャラクターの生き様や人間のドラマを楽しむ娯楽であり、キャラクターがいないと漫画は始まらない。そうであるなら、ストーリーはどうすればうまく作れるのか。「キャラクターがどんな人間なのかをどんどん掘り下げて、追求する」というのが、ハイド氏の答えだ。
ハイド氏は漫画の専門学校で20年、全国10校以上で講師をした経験を持つが、生徒に「自己紹介漫画」を描かせると、これまで物語を作った経験がない人も含め、全員が描くことができるという。それは、主人公である「自分」というキャラクターがすでに自然と掘り下げられているから。名前、誕生日、血液型、住所、通っていた学校から好きな食べ物、嫌いな食べ物、家族構成にペットの有無まで、自分のことなら過去も望む未来も細かく“設定されている”ため、物語が自然と作れるのだという。自分が創作したキャラクターをそこまで掘り下げられているか、ということがストーリーを充実させるポイントになるようだ。直接的に表に出てこない設定をどれだけ作り込めるかが鍵になるのかもしれない。
言われてみれば当然のように思えることでも、うまく言語化できずに腑に落ちないポイントも多い。それをアマチュアにもわかりやすく伝えてくれるこうした動画は、漫画文化の底上げに資するに違いない。漫画家を目指すクリエイターはもちろん、編集者志望の人も、漫画を読む視点を深めたい読者も、ぜひチャンネルをチェックしてみよう。
■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=3MpXedWZ3Gg