宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』はどんな映画に? 鈴木敏夫『スタジオジブリ物語』から考察

宮崎駿『君たちはどう生きるか』はどうなる?

『スタジオジブリ物語』には、「この『シュナの旅』は鈴木の提案により、『ゲド戦記』のキャラクターと美術設定のベースにもなっており、最終的には原案とクレジットされている」とある。一方で、『シュナの旅』自体が、宮崎駿監督がル=グウィンの『ゲド戦記』から影響を受けて描かれたものとなっている。ル=グウィンの原作に、そこから派生した宮崎駿監督の創造が混じった映画になった恰好だ。

 こうした"改変"を、宮崎駿監督自身がル=グウィンに話しに行った際の緊張感あふれるやりとりが、『スタジオジブリ物語』には鈴木敏夫著『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』(文春新書)から引く形で紹介されている。納得が得られたかのように書かれているが、ル=グウィンはその後、複雑な心境を明かしている。引退するから息子に任せたはずが、次の映画を作っていると聞いて失望したといったもので、宮崎駿監督の繰り返される引退宣言に、世界的なSF作家も翻弄されたと言えそうだ。

 こうなると、『君たちはどう生きるか』も、発端となった児童文学との関係が気になるところだが、スタジオジブリがその後に手掛けた『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)も『思い出のマーニー』(2014年)も、テレビ放送され劇場版も作られた『アーヤと魔女』(2020年)も、原作となった海外作品の内容をしっかりと踏まえた作品になっている。『思い出のマーニー』は、ジョーン・G・ロビンソンの原作ではイギリスが舞台になっている。映画はこれを日本の北海道に置き換え、疎外感を覚えている少女が療養先での交流を経て立ち直る様子が描かれた。

 海外の児童文学に影響を受けながら原作にはしていないという『君たちはどう生きるか』の場合は、自由な発想で今の人が”どう生きるか”を問うストーリーになっているのかもしれない。それを描くスタッフも、庵野秀明監督が『ヱヴァンゲリヺン新劇場版』で作画監督などを任せ、故今敏監督も『千年女優』でキャラクターデザインと作画監督を任せた「師匠」こと本田雄が作画監督として参加。カリスマアニメーターとして名高い井上俊之も原画として参加している。宮崎駿監督が求める以上の絵を見せてくれることだろう。

 早くから劇場で予告編を流し、テレビ番組にもキャストが登場して大宣伝をかけてもヒットするとは限らない映画の世界にあって、タイトルとポスター1枚だけという最小限の情報で観客が劇場に足を運ぶのか、といった問題はやはりつきまとう。そこは実績がある「宮崎駿監督作品」という看板でカバーできるという考えなのかもしれないし、宣伝をしないのが逆に宣伝にもなっている。

 「異例づくしの宮崎駿監督82歳の挑戦を、果たして観客はどう受け止めるか」(『スタジオジブリ物語』より)。答えは間もなく示される。

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