宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』はどんな映画に? 鈴木敏夫『スタジオジブリ物語』から考察

宮崎駿『君たちはどう生きるか』はどうなる?

 7月14日の公開日が迫る、宮崎駿監督の10年ぶりの新作長編アニメーション『君たちはどう生きるか』。吉野源三郎の小説と同じタイトルと、ポスタービジュアルしか明らかになっておらず、どのような内容になるのかと世界中が公開日を注視している。鈴木敏夫プロデューサーの責任編集で6月16日発売となった『スタジオジブリ物語』(集英社新書)には、「映画の中身はまったく小説とは無関係」という一文や、過去に宮崎駿監督が作品をどのように作っていったかが書かれていて、謎に満ちた新作映画を想像するヒントを得られる。

 『宮さんが一冊の本をぼくに提示した。「読んでみて下さい」アイルランド人が書いた児童文学だった』。2017年に岩波書店から刊行された鈴木敏夫著『ジブリの文学』に収録されている文章だ。『スタジオジブリ物語』はこうした、スタジオジブリや宮崎駿監督、高畑勲監督に関連した書籍や膨大な記事、そして記録などを元にしたスタジオジブリの歴史が、過去から現在まで年を追うようにして編まれている。

 宮崎駿監督がアイルランド人作家による児童文学を提示したエピソードは、最終章となる「第24章 宮崎駿82歳の新たな挑戦『君たちはどう生きるか』」に『ジブリの文学』からの引用として紹介されている。そこには、「宮崎から鈴木に提案があった企画こそが、本作『君たちはどう生きるかだ』。」と綴られている。ということは、新作長編映画は『ハウルの動く城』(2004年)や『ゲド戦記』(2006年)のように、外国の児童文学が原作なのか?

 そうとは言い切れなさそうだ。『ジブリの文学』からの引用によれば、宮崎駿監督は、「この本には刺激を受けたけど原作にはしない。オリジナルで作る。そして、舞台は日本にする」ことを企画書に書いたという。同じ章の冒頭で、吉野の小説『君たちはどう生きるか』に感銘を受けて、宮崎駿監督が「今回、自作のタイトルに借用した」ことや、「映画の主人公がこの小説を読んでいるという設定はある」ことも書かれている。合わせると、生き方を模索する主人公が冒険を繰り広げるファンタジーのような雰囲気が浮かび上がってくる。

 発端となった児童文学は明らかにされていないが、噂では、『キャクストン私設図書館』(東京創元社)がアメリカ探偵作家クラブ短編賞に輝いた、ジョン・コナリーによる『失われたものたちの本』(創元推理文庫)ではないかといった話が出ている。本を愛する12歳の少年が、母親を亡くして孤独に苛まれる中で幻想的な物語の世界に迷い込むといったストーリー。これなら主人公が、吉野の小説を愛読していても不思議はない。

 映画はオリジナルと言っている以上、そのままのストーリーにはならない可能性は高い。その点、スタジオジブリは児童文学や小説のタイトルを借りつつ、オリジナリティを持ち込んだ作品を幾つも出して来た"実績"がある。代表的な例が、10年前に宮崎監督が、いったんは引退作品とし言っていた『風立ちぬ』(2013年)だ。タイトルは堀辰雄の同名小説から借り、内容でも恋愛を盛りこみながら主人公は戦闘機の零戦を開発した堀越二郎にして、まったく新しい物語を紡ぎ上げた。

 宮崎吾朗監督を抜擢してアーシュラ・K・ル=グウィンの代表作を長編アニメーション化した『ゲド戦記』でも、世界規模でファンを持つ作品に、宮崎駿監督の絵物語『シュナの旅』(アニメージュ文庫)を入れ込む挙に出た。『スタジオジブリ物語』によれば、宮崎駿監督が『ゲド戦記』をやるくらいなら『シュナの旅』をやれば良いんだと言っていると宮崎吾朗監督が人づてに聞き、そこから映画のストーリーの骨格が作られていったという。

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