川村元気 × 水野良樹「言葉、物語、対話」への向き合い方 「自分というものは常に誰かとの関係性でできあがっている」
自分の美点を、他の誰かに見つけてもらう
――ここで少し、本のほうに話を戻しましょう。この『ぼく モグラ キツネ 馬』の中に出てくる「言葉」は、基本的にはすべて、彼らの「対話」から生まれたものであって。そういった「対話」の重要性については、お二方とも仕事柄、いろいろ思うところがあるんじゃないですか? それこそ、水野さんは、いきものがかりとは別に、2019年から「HIROBA」という、小説家などを交えた音楽制作のプロジェクトも行っています。
川村:奇しくも最初に水野さんが言っていましたが、人間というのは自分のことだけがわからない。自分の良さみたいなものもわからない。なので、他の誰かに自分の良さを見つけてもらうっていうのは……特に、誰かとものを作る我々のような仕事の場合は、その方法がいちばんいい感じがするんです。あと、この本は「君のいいところはこうだよ」というのを、相手に見つけてもらう話じゃないですか。ここに出てくる動物たちって、少年も含めてみんな自己肯定感が低めなんだけど(笑)、自分の美点を、他の誰かに見つけてもらうところが、すごくいいと思うんです。
――なるほど。
川村:最近、『怪物』(2023年)という映画を、是枝裕和監督と坂元裕二さんと一緒に作ったのですが、お互いの美点を見つける瞬間が、見ていてすごく良かったんです。最初に坂元さんが書いた3時間分ぐらいある脚本を、是枝さんが読んだあと、坂元さんが映画の尺に収めるために、どんどん切っていく。だけど是枝さんは、良かったところしか言わないんですよ。あなたがカットしたここが、自分はとても好きだから戻してほしいと。その理由はこうでっていうことを、ひたすら是枝さんが坂元さんに伝える。そこで坂元さんも、そこが自分の脚本のいいところなんだと発見していくようなプロセスがあって。逆に僕らも坂元さんから、あなたたちの映画を、僕はこういうふうに見ていますっていうことを、いっぱい教わったりもして。
水野:ちなみに、そのシーンというのは、第三者から見ても、良いシーンだったんですか。
川村:それがね……すごく良いんですよ。ストーリーとは直接関係のないシーンだったりするんですけど。やっぱり坂元さんの書くものって、ストーリーとは一見関係のないところというか、ストーリーを直接的に前に進めるためのものじゃないセリフがすごくいいんですよね。たとえば、「さけどころうえだの自販機でコーラ買ったことある? あそこのコーラは三回に一回あったかいコーラが出るよね」みたいな子供のセリフって、直接的に物語を前進させるためのものではないけれど、そこがすごくいいっていう。
水野:なるほど、面白いですね。
川村:坂元さんは、ドラマとは違って全体の尺が短い映画だから、物語を前進させないものを落とそうとされたこともあったのですが、それを僕らが戻すみたいな作業が今回はすごくあって。まあでも、僕がミュージシャンと仕事するときも、大体そういう感じだったりします。「僕が思うあなたの素敵なところは……」っていうことをひたすら言うんです。
――水野さんは、「対話」の効用みたいなものを、どのように捉えていますか?
水野:「対話」ですか。
川村:HIROBA、大変じゃないですか? たくさんの人と時間を掛けて、いろんなコミュニケーションを取らなくてはいけないだろうし。
水野:そうですね。でも、楽しいです。やっぱり自己完結していないところがいいんでしょうね。結局、小説家の方だったり、誰かに歌詞を描いてもらうっていうことは、もう作曲の半分を預けているようなものだから。その人と「対話」して、そのやりとりの中で自ずと次のことが決まっていく感じがいい。その結果、自分では想像もつかなかったところに行き着くと、そこまでの過程は僕だけのものじゃなくて、対話した相手も含めて全員のものになるじゃないですか。僕が主人公じゃないことの面白さがあるんです。
川村:脇役でも、いい芝居をするというのは名優の証です(笑)。でも、そういう中から何かとんでもない曲が出てくると、また面白くなりそうですよね。とんでもない歌詞の曲とか、何か異形のものが出てきた瞬間に僕はすごくドキドキするので。水野さんにはJ-POPを魔改造してほしいです(笑)。
水野:また、そういうことを軽々と言う(笑)。
川村:(笑)。でも僕、一度でも出会ったことのある人は、ずっとチェックしているんですよ。こないだHIROBAで橋本愛さんと一緒にやった「ただいま」のミュージックビデオもとてもよかった。そうやって絶えずチェックしていて、その人の内的変化みたいなものが表現に現れた時に、僕は声をかけにいくんです(笑)。
水野:怖いなあ(笑)。でも、川村さんはどうして他人にそこまで興味を持てるんですか?
川村:逆に言うと、僕は自分にあまり興味がない。というか自分がわからないし、それを面白がれない。もっと正確に言うと、他人が変化することに僕はすごく興味があるんです。なぜならその変化が、僕自身にも大きな影響を与えてくれることがわかっているから。そういう意味では確かに、この『ぼく モグラ キツネ 馬』に描かれていることと同じなんです。
■書籍情報
『ぼく モグラ キツネ 馬』
著者:チャーリー・マッケジー
翻訳:川村元気
価格:¥2,200
出版社:飛鳥新社
『ぼく モグラ キツネ 馬 アニメーション・ストーリー』
著者:チャーリー・マッケジー
翻訳:川村元気
価格:¥2,640
出版社:飛鳥新社