古代エジプト象形文字「ヒエログリフ」どう解読した? ふたりの天才による知のバトルが熱い!

ヒエログリフの解読レースが面白い

 クフ王のピラミッドの内部で、186年ぶりに未知の空間が発見される。というニュースが最近も流れてきたりと、未だ謎に満ちた存在であるエジプトの古代文明。その奥深さを象徴するものの一つが、「ヒエログリフ」と呼ばれる象形文字だ。

 ジグザグや鳥の絵、半円などで構成された神秘的な文字体系で、エジプトの神殿や墓・石碑、果てはミイラの包帯にまでこの文字でメッセージらしきものが記されている。紀元前3000年頃から使われてきたが、キリスト教の台頭と共に廃れていき、紀元後394年を境に使用の形跡は完全になくなる。以降1000年以上にわたり、誰も読めない謎めいた文字であり続けた。

『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース』(東京創元社)

 そんなヒエログリフの解読に至る過程を、手に汗握るエンターテイメントとして描いたノンフィクション作品。それが本書『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース』(東京創元社)である。

 主人公となるふたりは、ライバルストーリーにお誂え向きの対照的なキャラクターをしている。1773年生まれのトマス・ヤングは、博識なイギリスの物理学者。医学・物理学・言語学など様々な学問に精通し、感情をおもてに出すことはないが自分の知力に絶対の自信を持っていた。一方、ヤングの17歳年下であるジャン=フランソワ・シャンポリオンは、一点集中型のフランス人研究者。感情を爆発させることはしょっちゅうで、10代の頃から古代エジプト語の研究に情熱を傾けてきた。

 共通するのは、天才的な頭脳の持ち主で、語学の才に恵まれていたということ。しかも同時期に、18世紀末エジプトで発掘され話題となった「ロゼッタストーン」に挑んでいた。ヒエログリフとデモティック(ヒエログリフを速記用に簡略化した文字)とギリシャ文字、3種類の文字が刻まれたこの石板。ギリシャ文字の翻訳によって王への賛辞を3パターン記していることが判明し、残り2種類の文字について解読の期待が高まるも、読み解ける言語学者は現れずにいた。

 単語帳も文法書も無ければ、左右どちらから読むのか、どう発音すればいいのかもわからない。そこから何が書かれているか仮説を立てては、実証実験を繰り返していく。ふたりの試行錯誤する様子は、難解なパズルゲームをしているようにも、探偵がトリックを見破ろうとしているようにも見える。だがそれだけを追っていると、脳の使い過ぎで肩が凝ってしまうというもの。本書の白眉はヒエログリフの解読を〈ウィル・ショーツ(アメリカのパズルクリエイター)とインディアナ・ジョーンズが手を組む〉プロジェクトと捉え、机上の話のみで終わらせなかったところにある。

 解読の重要なヒントとなる、古代の遺物。それを見つけ出すのは、危険を顧みずに遺跡を探索する、好奇心旺盛な旅行者や一獲千金を狙う荒くれ者たちの役目だ。西洋人でありながら流暢にアラビア語を操り、現地の人間に紛れ込むヨハン・ルートヴィヒ・ブルクハルト。神殿の巨大な記念碑を3年かけてイギリスまで運んだ、大金持ちの旅行家ウィリアム・バンクス。元サーカス団の怪力男で考古学者と盗賊を兼業するジョバンニ・ベルツォーニといった面々の冒険譚も、読みどころの一つとなる。

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