『おまわりさんと招き猫』著者・植原翠インタビュー 「日常の中にある、ちょっと不思議な出来事を書きたい」

『おまわりさんと招き猫』インタビュー

多くの人に共感してもらえて、その人たちの心の傷を癒せれば

――第2巻の「刑事課の北里さん」という章では、おもちさんの身に起きた過去の出来事から、おもちさんが持つ異能の謎にスポットが当たりますね。

植原:1巻を出したときに読者さんから、おもちさんの謎は解けるのか?という反応もいただきまして。そのように言っていただいたからには、むしろ余計に謎を深めようかなと(笑)。それで、もう謎を解く気もなくなっちゃうくらいのエピソードを入れてみました。でも、設定を盛り過ぎてしまうと、おもちさんというキャラクターが迷子になってしまう気がしたので、それらのエピソードが冗談なのかなとも思わせるような落とし方にしています。

――『おまわりさんと招き猫』シリーズではあやかしや不思議な出来事がたびたび起こりますが、シリアスな謎解きや急展開で進行するのではなく、共同体の日常の中に起こるどこか優しいエピソードが軸になっています。お話を考える上で、どのようなことを大事にされていますか?

植原:普通の日常の中にある、ちょっと不思議な出来事を書きたいというのがありましたので、ニュースになって大騒ぎになるような出来事にしてしまうと日常ものから離れていってしまう。あくまで町内の中で留まるくらいの規模のお話にしてはおります。

――ストーリーを作る際に難しいのはどのようなところでしょう?

植原:警察官の仕事内容が全然わからないっていうのが難しいです、自分でそういう設定にしたんですけども(笑)。幸い知り合いにおまわりさんがいて、その人が教えてくださるので助かっているんですが、交番の中でお昼を食べるのかなとか、どのくらいの頻度で無線が鳴るのかとか、細かいところがわからない。まだまだ手探りというところです。

――のどかな町の交番ですが、やってくるのが可愛らしい河童の子どもだったりしますよね。

植原:警察官ってギスギスしたイメージを持ってる方もいるかなということもあって、子どもやお年寄りと関わっている地域の警察官を親しみやすく書いていこうと思って、子どもの妖怪や動物など、可愛いものを組み合わせるようにしています。

――おまわりさんと子どもといえば、第1巻に収録されている「憧憬、そして今」というエピソードは、主人公の小槇くんが警察官を目指すきっかけにもなる、過去と今が交錯するような不思議なお話です。

植原:小槇くんは、自分のことを警察官に向いていないんじゃないかとか、あまり成長できていないのではないかと悩んでいる。でも、小さかった頃の自分から見たら、しっかりした大人の背中だし、ヒーローにもなれていたんだっていうお話ですね。自分で思っている以上にちゃんと成長しているんだよっていう、読者さんへのメッセージでもあります。

――昨年末発売の第2巻では、前作を踏まえてストーリー作りに変化はありましたか?

植原:1巻を出したことで読者さんからの反応も自分の耳によく届くようになりました。多くの方から、優しいお話だと言ってもらえたことが、2巻を書く上での弾みになっています。「優しさ」って、痛みがわかるからこそ生まれるものなんじゃないかなって思っておりまして。つまり、優しい人はなにか心に傷を抱えている。だからこそ、人を思いやれるのではないかと。そんな優しさを持っている人が、この作品を読んでくれているのだろうということもあって、2巻は心の傷みたいなものを描くエピソードが自然と増えていったように思います。

――人々が胸の内側に抱える傷を物語に書く場合、さじ加減が難しいのではとも思いますが、書き方で意識されたことはありますか?

植原:あまりに悲しすぎるエピソードというよりは、多くの人が同じ体験をしたことがあるような事柄を描くようにはしています。多くの人に共感してもらえて、その人たちの心の傷を癒せればという意図もあって。小さめの傷、というわけではないですけれど、本人の中ではいつまでも残ってるけれども人に話すほどではなかったり、つい隠してしまうようなエピソードを描いています。

――小槇くんが昔飼っていた文鳥とのエピソードや、跡継ぎがおらず新規客の来ない老舗の和菓子屋さん、盆帰りのお話など、たしかに2巻はリアルな切なさのある章が多いですね。

植原:親友のように思っていた文鳥との別れ方は、仕方ないことだとわかっていても後悔があるだろうと思いますし、また和菓子屋さんのエピソードは子どもの頃、私自身が商店街にある自営業の家に住んでいたのでいろんなお店の悩みを耳にしたこともあって、今回のようなお話に落とし込んでいます。盆帰りの章は読者さんからもいろんな反応をいただけて嬉しかったですね。動物的なあやかしとはまた違った、人と人との心のつながりを書いたお話になっていて、読者さんも共感しやすかったのかなと思います。

『おまわりさんと招き猫 おもちとおこげと丸い月』ことのは文庫公式PV

――あやかしだけでなく、そうした人と人との関係性の描き方も『おまわりさんと招き猫』シリーズの大きな魅力ですよね。特に第2巻ではそれがあらわれています。

植原:ありがとうございます。確かに、人間同士のお話は今回増えたなと思っています。逆に言うと、あやかしのエピソードが少なくなってしまったので、読者さんにとってはどうなんだろうとも思ったんですけれども。でも、読んでいただいた方に好きなエピソードをお聞きしたときに、多くの方が盆帰りや和菓子屋さんの話を挙げられていたんですよね。人と人とのお話を好きになってくれる人って多いんだなと風に思っています。

――おもちさんが常に出ているので、あやかし要素はそれでもう十分満たされているのかもしれないですね。

植原:そうかもしれないですね(笑)。人と人とを繋ぐあやかしとしておもちさんがいるので、それで結構すっきりまとまっているのかもしれない。

――植原さんの作品でいえば、『手作り雑貨ゆうつづ堂』シリーズなどにもあやかしが登場しますし、あやかしというモチーフ自体への思い入れを感じます。その原点はどのようなところにあるのでしょう?

植原:それが、子どもの頃は怖い話が苦手で、『怪談レストラン』シリーズのような作品ですら怖くて読めなかったんです。けれど小学校の頃、学級文庫か何かで読んだ小説に出てきた妖怪の女の子がすごく可愛かったんです。それから、妖怪ってこんなに可愛いんだって思い始めて、というところからですね。なので、小学校ぐらいで妖怪を好きになって、好きであるからにはもっと知りたいと思って、民俗学とか昔の文献も、ちょっとかじってみたりして。民俗学って人間の生活に根付いたものなので、おのずと人の心だったり生活にも興味を持つようになりました。それが最終的に、今書いているようなお話にもつながっているのかなと思います。小学校の頃に読んだその小説自体はタイトルも思い出せなくて、表紙さえうろ覚えなんですけど、あれが原点だったと最近になって気がついたので、ちょっと調べてみたいなと思っています。

――好評の『おまわりさんと招き猫』シリーズ、この先に続くとしたらどのようなお話を書いてみたいか、展望をお聞かせください。

植原:私も、できればこの作品は長く続けさせていただけたらと思っています。もし、先を書かせていただけるとしましたら、1巻2巻と続いていく中でそろそろ読者さんもキャラクターに愛着を持ってくれてるのかなと勝手に思ってますので、次は今登場しているキャラクターたちの内面や過去を掘り下げていくようなお話ができたらなと考えています。

――『おまわりさんと招き猫』シリーズのファンの方へ、また初めて植原さんの作品に触れられる方へのメッセージをお願いします。

植原:こんなに自分の作品が多くの人に読んでいただけるということを、最初の頃はまったく思ってもいませんでした。他でもない読者の皆様のおかげで、『おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常』も3刷まで持っていっていただけたと、月並みな言葉なんですけれど、本当に心からそう思っております。これからも、物語をより一層多くの人に広げていけたらなと思っているので、皆さんもぜひ読んで、ついてきていただけたらなと思います。これからこの作品を知ってくださる方々にも、きっと物語に共感してくれる人がおられると思いますので、この作品がより多くの人に読まれて、届くべき人に届いてほしいです。新しい読者さんが広がって、今いる読者さんと一緒に仲良くお話をしてくれたり、この作品を通じて友達になる方とかもいたらいいな、なんて思ってますので、読んでもらえたら嬉しいです。

■書籍情報
『おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常』
著:植原 翠
装画:ショウイチ
発売日:2021年10月20日
価格:759円(本体690円+税10%)

『おまわりさんと招き猫 おもちとおこげと丸い月』
著:植原 翠
イラスト:ショウイチ
発売日:2022年12月20日 
価格:792円(本体720円+税10%)

『おまわりさんと招き猫』特設サイト
https://kotonohabunko.jp/special/omawarisan/

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