【漫画】「センス」や「才能」は言い訳? 現役美術教師が描くSNS漫画に目からうろこ
生徒のが口にする「才能」に違和感
――漫画『言い訳すんな』(絵のセンスがないという人に伝えたい)制作の経緯を教えてください。
夏目:普段から「生徒が口にする“絵のセンス・才能”ってなんだ?」というモヤモヤを抱えていました。この手の話は抽象的に語られることが多く、先天的な要素も少なからず影響はしているため、「一度整理してみよう」と思って描きました。ただ、非常に落とし所が難しかったです。
――どの辺に難しさを感じましたか?
夏目:才能やセンスは芸術分野に限らず広く使用される言葉ですので、「他の分野でも夢を持って努力を継続されている人たちに配慮しないといけない」と考えて、「ちょっと方向を間違うと不味いな……」とヒヤヒヤしながら描きました。ですので、断言せずにボヤッとした言い方に終始してます。
――次に『絵心ない』(子供の絵の苦手意識、元凶かも)制作の経緯を教えてください。
夏目:実際に本作で描いた出来事に遭遇したことがあり、ずっと違和感を持っていたのでマンガに昇華させました。その時は和やかにしていたんですが、腑に落ちないところがあり、よく考えたら「子供に対して酷いことを言っていないか?」と思い直したところからです。常々、「子供の絵の苦手意識って何だろう」と教えながら考えており、様々な要因はあるとは思いますが、「こういった小さいころの刷り込みもあるんじゃないか?」とその時ハッとしました。
――ちなみにこちらの2作品は生徒さんや保護者は読んだのですか?
夏目:実はマンガ活動は、勤務先の誰にも言っていません。「生徒・保護者のあの人に読まれたらどんな反応するだろう?」とか気を使ってしまうので……。
――最近は“コスパ・タイパ思考”の若者が増えており、「センス・才能がなければ無駄だからやりたくない」という傾向もあるかもしれない……と思ってしまいます。
夏目:私はむしろ逆の印象を持っています。あくまで肌感覚なのですが、今の高校生世代はコロナで最低限の行事、オンライン学習などで必要以上な効率化を強いられており、むしろ人間くさく、非効率的な要素に興味を持っている気がします。リモートから実際に教室で友達とあった時の感動など、「オンラインで得難い感覚はやはりコスパ、タイパでは量れないもの」と潜在的に思っている部分もあるのではないでしょうか。
――改めて、夏目さんが考えるセンス・才能について教えてください。
夏目:絵に関しての話であれば、一般的に「普通にものが描ける」「色や形で自己表現できる」レベルのところまでは教育の力で何とかなると思います。それは「数学が苦手だったけど、克服してこの問題を解けるようになった」と同じで、ようは思考力の問題です。こういう段階を理解しないで「センス・才能がない」で片づけてしまうことは思考停止になる危険な言動だと思います。
――早々に決めつけてしまうと自分の可能性に気付けないリスクがありそうですね。
夏目:はい。ただ「明らかにこの子は、他と違う何かを持っている」というケースは教育現場でも稀に見かけることも事実。教育では超えることのできない向こう側に行く人に対して、「センス・才能があるかも」と感じることはあります。とはいえ、実際の現場では生徒に対して一律・平等なので、そういうことはもちろん言葉にしません。
美術部でも、1年生で力があってもその後伸び悩んだり、途中でグンと伸びて大きな賞を受賞したりなど、本作で描いたように本当に辛抱強く続けないとわからない世界です。ただ他分野と違うことは、身体的に健康であれば美術作品は誰でも作れます。なにより、どのような作品が評価されるかも未知ですので、センス・才能はハッキリとは定義できないものです。
――今後はどのように制作活動を続けたいですか?
夏目:私は軸足が漫画ではないので、のめり込みすぎないよう気を付けていますが、今は結構軸足も持っていかれそうです。読んでくださる人がいるうちは、SNS上で緩いペースで続けていこうと考えています。誰かが「絵を描きたくなった!」「やる気になった!」と思ってもらえるような話を描き続けることが、当面の活動目標です。近いうち、漫画短編をまとめてkindleにしたいと思っていますので、読んでいただければ嬉しいです。