『ゼロの使い魔』『異世界はスマートフォンとともに。』兎塚エイジが語る、 2000年代のライトノベルの仕事と時代背景

兎塚エイジが語る2000年代のライトノベル

現在のライトノベルとの違い

――18年以上ライトノベルの仕事を手掛けている兎塚先生から見て、ラノベの絵柄や、内容などに変化を感じる点はありますか?

兎塚:僕は自分の仕事ベースでしか知らないのですが、これまで絵を描いてきた「なろう」系を読んでいると、導入が早い物語が好まれているのかなと感じます。起承転結の「起」を飛ばす感じでしょうか。『ゼロの使い魔』だって早い方だと思ったのですが、「なろう」系はそれ以上ですね。もっと前の作品だと主人公の日常シーンなどがあってから本題に入るのですが、今だと主人公の過去の話は後から付け足していく形になっていますね。今の読者は前置きが長いと、読んでくれないのかもしれません。

――異世界で生活をするラノベとしては、『ゼロの使い魔』も早い時期の作品だと思います。世界観は似ているようで、違うのでしょうか。

兎塚:『ゼロの使い魔』は純粋なファンタジーベースですが、今のラノベはゲームファンタジーベースです。神話や歴史をベースにした『ロードス島戦記』などを見て育った人たちが、生み出したのが『ゼロの使い魔』。対して、今はゲームに親しんだ下地があるうえで生み出されたファンタジーなので、ゲーム用語が本文にたくさん出てきます。主人公のレベルが上がったりする設定とか、能力や職業もゲームっぽいですよね。

いわゆる“なろう系”の代表的な作品である『異世界はスマートフォンとともに。』は、巻数ではすでに『ゼロの使い魔』を上回っている。

スマホゲームと美少女ゲーム

――ゲームといえば、兎塚先生はスマホゲームの『マギアレコード』の枇々木めぐるのキャラクターデザインも手掛けています。スマホゲームの絵は、美少女ゲームの絵と比べて、求められるものの違いはありますか?

兎塚:美少女ゲームと比べると装飾が多いですね。特に、SR、SSRなどは豪華にしなきゃいけません。あまりデザインが簡単だとレアさがなくなるわけです。また、パワーアップした後のキャラは装飾を増やしてくれと言われます。ゴテゴテしないといけないぶん豪奢になっていくので、描く時間はかかりますね。

――日光東照宮のように盛り盛りに飾る感じですね(笑)。

兎塚:表情を7~8パターンくらい描くのは美少女ゲームの立ち絵と同じなのですが、装飾が多いし、あとはライブ2Dがあるので、動かした時のことも想定して見えないところまで描かないといけませんから、結構大変なんですよ。キャラが戦闘の時に動くと、立ち絵だと隠れている服の裏側が見えますよね。だから、胴体や足など、パーツごとに分けてデザインする必要があるのです。

――スマホゲームといえば、海外のイラストレーターも多く参画しています。技術力でいえば日本人を超えている部分も多いといわれますが、どのように見ていますか。

兎塚:中国や韓国のクリエイターは、技術面では日本人と差はありませんし、急激にレベルも上がっているので凄いと思うことが多いですね。描き込みも凄いし、何より熱量がとんでもないです。聞き伝ですが、海外の企業の方が待遇的にもよいらしいので、今後日本人のクリエイターを育てるなら、給料などをもっと上げないといけないんじゃないかと思います。

――時代の変化に合わせて、兎塚先生が絵の研鑽に取り組んでいることはありますか。

兎塚:最近はAIも出ているので、何をもって「絵が上手い」と言うのか、その判断が難しいと思うんです。もちろん、技術的に上手くなるに越したことはないですが、見て誰の絵だとわかるような個性の方が必要だと思います。何か一つ、その人ならではの強みがあればいいなと。僕は自分の絵の個性ってわからないんですが、まわりの人が見て良い絵だと思ってくれたら、それでいいと考えています。

『追放魔術師のその後 新天地で始めるスローライフ』も“なろう系”の作品。小説家の商業デビューの仕方も、ラノベ黎明期と大きく変わりつつある。

これからのイラストレーターに必要なこと

――Twitterを見ていると、イラストレーターの仕事をしていてギャラを踏み倒されたり、無茶な欲求をされたという話がよくバズっています。兎塚先生はそういった体験はないのでしょうか。

兎塚:僕はそういうことは一度もなくて、運がいいのか、恵まれている方なのかなと。僕は企業から発注を受けて、それに応える側の人間。多少の無理なお願いも、時間があればある程度対応します。仕事は割と淡泊にやっていて、あんまり僕は先生堅気になりすぎることがないんですよね。

――私は兎塚先生と何度かお話をさせていただいていますが、いつも、先生は謙虚ですよね。

兎塚:僕はなし崩し的にイラストレーターになったからだと思います。もともとゲームを作りたくて、ずっとゲームの設定画を描いてきたんです。『道士さまといっしょ』の編集者に見つけてもらえなければ、ラノベの仕事をやるなんて夢にも思わなかった。だから、イラストレーターという仕事に、良くも悪くもこだわりがないのかもしれません。

――兎塚先生が第一線で仕事を手掛けることができる要因は、そこにあるのかもしれませんね。今後、やってみたい仕事やイラストレーターとしての目標などはありますか。

兎塚:時代は変わっていますが、僕自身はやっていることはそんなに変わらないので(笑)、これからも仕事を継続していきたいと思っています。絵を描くことは子どものころから好きなので、思い描いた通りのキャラクターや世界観ができたときが一番楽しい。イラストレーター冥利に尽きる瞬間ですね。

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