BL愛好家・クリス菜緒が選ぶ「2022年BLコミックBEST10」 型にはまらない愛を描く作品に感じる“新たな扉”

 3位は、兄弟同然に育ちながらも引き裂かれた3人の孤児、サム・ハル・ノブが、大人になって孤児院の闇を暴くために黒い経済界と対峙していく極上のクライムサスペンス『CANIS-THE SPEAKER-』。命の危険とも隣り合わせの展開が、緊張を解くことを許さない。だからこそだろう。過酷な道を自ら選んだ3人が互いを求め合うシーンには、彼らの生、魂のようなものが宿っていた。孤児院を取り巻く闇の正体をはじめ、あらゆる伏線が回収されていく快感もたまらない。海外ドラマに寝るのを忘れて見入ってしまったときに近い高揚感が味わえる一作だ。

 2位の2022年に完結を迎えた『親愛なるジーンへ』もまた、ミニシアターでとっておきの洋画に出会えた時のような感覚を与えてくれた。弁護士のトレヴァー・エドワーズと、数百年前の清貧な暮らしを守り続けるアーミッシュだったジーン・ウォーカーが共に過ごした、1970年代のアメリカ・ニューヨークでの数年間を描いた同作。読者は、トレヴァーの甥のジーンが叔父の手記を約20年越しに読むのと一緒に、ふたりの生涯最大の恋を辿っていく。この第三者の視点を介した今と過去を行き来する演出によって、ふたりが愛を育む70年代のニューヨークにいるかのような臨場感を味わえた。

 そしてただのBL愛好家である筆者が選ぶ2022年至極の1冊は、吸血衝動を抑えられない不死身の体となってしまった新人医師上川忠雪と、彼の先輩医師・十字健の、生物的には異なる種族になってしまったふたりが共に過ごした数十年を描く『CURE BLOOD』だ。ランキングをつけるなんて、と言いつつこの作品だけはぶっちぎりだった。まず同作には、本当に驚かされた。恋愛、性愛を描く作品がほとんどのBLというジャンルにおいて同作は、登場するふたりの関係性を明示していない。にもかかわらず、互いを深く想い合っていることがヒシヒシと伝わってくるのだ。

 くわえて同作には、1巻完結という形だったからこその輝きを感じた。死ねなくなった忠雪にとって、普通に年を重ねる十字と過ごした数十年は、一瞬で過ぎ行くものだ。その刹那を、1巻という1時間もあれば読み終わるページで表現していたように思う。だからといって、ふたりが積み重ねた愛おしき日々を描くことにも抜かりはない。ふたりは、死別という忠雪に訪れる長きにわたる孤独を理解したうえで、自らの意思で共に生きることを選んでいる。こんなふたりだからこそ、物語中の時間が遠慮なく過ぎていこうとも、目の前の一瞬一瞬を愛おしみ、積み重ねて生きたと感じ取れるのだ。一緒に生きたいと願った人との日々で得た喜怒哀楽のすべてが、生きる力になる――。今、作品を振り返りながら、また目から涙があふれている。

キーワードは「型にはまらない関係性」

 今回選出した作品を振り返ってみると、「型にはまらない関係性」を描いた作品に心惹かれたのではないかと思う。

 BLはボーイズラブの略称、つまり男性同士の恋愛を描き、恋仲になっていく過程を楽しむジャンルだ。ただ『CURE BLOOD』や『CANIS-THE SPEAKER-』で描かれた”L”の意味は、イコール恋愛、恋仲ではなかったと思う。『スリーピングデッド』や『蟷螂の檻』も、恋愛とひとくくりには言えない複雑な愛の様相を見せていた。

 以前筆者は『CURE BLOOD』について、「本作は職場の先輩後輩であるふたりの間柄の変化を、とことん読者に委ねている点において、非常にチャレンジングな一作」とレビューしている。ただ今回こうやってさまざまな作品を振り返る中で、BLで描かれる関係性は、読み手を含む他人にあれこれネーミング、カテゴライズされるものではなく、本来はキャラクターたちだけにしか理解できないものなのではないかと考えを改めた。

 自分たちだけの関係性を自由に深めていくキャラクターたちが描かれるBLの登場に筆者は、これまでに出会ったことのない作品の誕生を予感している。

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