漫画の休載はカジュアル化しているのか 漫画編集者と考える“時代の変化”と“変わらない激務”

漫画の休載が目立つ理由

 最近、連載漫画の休載や再開のニュースを目にする機会が多い。2022年に入り、『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博/週刊少年ジャンプ)や『宝石の国』(市川春子/月刊アフタヌーン)など、長期といえる休載から復帰した人気作もあれば、『ルリドラゴン』(眞藤雅興/週刊少年ジャンプ)や『MFゴースト』(しげの秀一/週刊ヤングマガジン)、『コボちゃん』(植田まさし/読売新聞)のように、作者の体調不良により休載が長引きそうな作品もある。

 他方で、漫画雑誌を手に取ったとき「あの作品が掲載されていない」ということも少なくない。多くは前号で休載が告知されているが、かつてのように「作者直筆の読者へのメッセージが誌面に載る」ようなことはなく、休載がカジュアルなものになっているようにも見える。特に「週刊連載」の過酷さを考えれば好ましいことにも思えるが、かつてと状況が変わっているのだろうか。

 週刊漫画誌の編集経験もある漫画編集者で評論家の島田一志氏は、「実際に休載しやすい環境にはなってきている」と語る。

「私は1990年代に週刊漫画誌の編集をしていました。出版社や編集部によって考え方は異なると思いますが、少なくとも私が働いていた雑誌では、“読者は毎週、作品を楽しみにしている”という前提から休載は基本的に許されざることと考えられており、漫画家さんも編集者も、軽くない体調不良でもやらざるを得ないという感じがありました。連載漫画というフォーマットを考えたとき、私はいまでも基本的に休載は好ましいものではないと思いますが、“読者のために”と言いながら漫画家さんを酷使するのは間違いですし、根性論で働くのは時代に合っていない。深刻な事態になる前にしっかり休養してもらおう、という方向に変化してきていると思います」

 時代が変わって、漫画家の「働き方」自体に変化はあるのか。島田氏は「連載漫画家の激務は、実はほとんど変わっていない」という。

「近年でデジタル化が進み、作画が楽になっている面も確かにあると思います。しかし、漫画家のほとんどの時間は実は打ち合わせとネーム(下描き)に費やされます。例えばドラマ等で、アシスタントと一緒にひぃひぃ言いながら徹夜で漫画を描いている……というシーンが印象に残っている方も少なくないと思いますが、あれは1週間のうち2日くらいのこと。それ以外のほとんどの時間、漫画家はネームと向き合っており、本質的な負担はあまり変化していない。つまり激務は変わらず、休みやすい時代になったことで、休載が目立つようになっているのでしょう」

 とはいえ、休載がカジュアル化することの問題点もあると、島田氏は指摘する。基本的には「先生たちもやむにやまれず休んでいるので、あたたかく見守るべき」としつつ、計画性の見えない休載が増えつつあることを危惧しているという。

「体調の問題で長期休載になるのは仕方がありませんし、新章突入の前など、区切りのいいタイミングでリフレッシュ休暇をとったり、夏休みや正月休みをとるのもいいことだと思います。問題は、載ったり載らなかったり、という不安定な状態が続くことで、これは読者に対して誠実だとは言えません。例えば『モーニング』は週刊誌でありながら、以前から隔週連載、月一連載などをうまく取り入れており、作品に応じて、安定的に連載を続けられる仕組みを作っています。雑誌のカラーには合っていても、取材に時間がかかるなど、掲載ペースを合わせるのが難しい作品もありますから、その点は各誌、工夫をすべきかもしれません」

 長期的な視点に立てば、安定した連載のためにも適度な休養/休載は必要だろう。40年間一度の休載もなかった『こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)』(秋本治/週刊少年ジャンプ)や、こちらは月刊誌だが、連載期間中に作者の出産があっても休載にならなかった『鋼の錬金術師』(荒川弘/月刊少年ガンガン)などの作品にも敬意を払いつつ、より面白い作品が健康的に生み出されていくことに期待したい。

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