立花もも 今月のおすすめ新刊小説 怪異の人気シリーズ、社会問題をテーマにした心温まる作品など厳選紹介

立花もも おすすめ新刊小説

夏木志朋『二木先生』

 主人公の田井中広一は、幼いころから周囲にうまくなじむことができず、少ししゃべっただけで「宇宙人」と奇異の目でみられたり、授業中に発言しただけで「自己アピールうざい」なんてくすくす笑われたりする。どうにか「普通の人」になろうと格闘していた時期もあったが、けっきょくうまくいかず、クラスでは浮きまくっている彼の自意識が、読んでいてしょっぱなから、痛々しくて、つらい。馬鹿にしているのではない。覚えがあるからだ。特別になりたい、でも突出した才能を発揮できるほど特別でもない。そんな宙ぶらりんなところにいる自分をもてあまして、突っ張ってしまう自分に。

 と、よくある少年の自意識小説で終わらないのが、本作のおもしろいところ。あるとき、生徒から慕われる美術教師の二木先生が、小児性愛者であることを知った広一。自分以上に周囲から浮いてしかるべき人間が、あっさり日常に溶け込んでいることに若干の苛立ちを感じながらも、この人だけは自分を理解してくれるのではないかと期待も抱く。そして秘密を知っているとちらつかせ、二木先生と個人的に交流をもちはじめるのだが……。

 二木先生の秘密は、露見すればまともに社会生活を送れなくなるほどの爆弾だ。だから二木先生は、広一以上の必死さで、長年かけて〝自分の大事な部分をクローゼットの中に隠して生きていく方法〟を身に着けてきた。そうすることでしか、生きてこられなかった。どんなに努力しても、自分は自分でしかいられない絶望を知っている二木先生だからこそ、広一の心に光を差し込むことができたのだ。

 その交流が、二木先生の決断が、〝正しい〟ものなのかどうかは、わからない。読む人によっては、もしかしたら受け入れがたい描写も、あるかもしれない。けれど、誰に受け入れてもらえなくても、二木先生も広一も、自分自身に寄り添いながら生きるしかない。その葛藤に触れて、自分ならどうするだろうと考えることが、多様性が叫ばれるこの社会で生きていく上で、大事なことなのかもしれない。

岩井圭也『付き添うひと』

 くしくも、こちらも、大人と子どもが対等に向き合うことで、未来を切り開いていく物語。付添人とは、〈家庭裁判所で審判を受ける少年の権利を擁護・代弁し、少年審判の手続きや処遇の決定が適正に行われるよう裁判所に協力する人〉と冒頭にある。

 主人公のオボロは、みずからも少年院に入った前歴をもつ異色の弁護士だ。知られれば、少年少女の親はオボロを信用できないと怯える。あるいは怒り出す。けれど、かわりに、子どもたちと同じ目線に立って、痛みを共有することができる。家族だからといって愛さなくてはいけない理由はないのだと、確信をもって伝えることができる。

 〈まずは、普通じゃないことを認めよう。そこからはじめよう。それから考えていけばいい。ぼくと一緒に〉。

 虐待を受けながら母親を見捨てられない少女に向けられたその言葉は、付添人としてオボロが子供たちに向き合うときの姿勢だ。更生させてやろう、なんてオボロは思っていない。助けてやろう、ともおそらく思っていない。ただ、道をふみはずしてしまった彼らに、それで人生が終わるわけではないことを、懸命に伝えようとしている。向き合いたくない現実にちゃんと向き合うことでしか、自分の人生をとりもどすことはできないのだということも。

 子どもたちとの対話を通じて、また彼らの親たちとも接することで、オボロは自身の過去にも向き合い、少しずつ乗り越えていく。自分と他者の痛みから目を背けず、一つずつ絡まった糸をほどいていこうとするオボロのような人が、現実にも子どもたちのそばにいてほしいと、切に願う。そして、自分もオボロのような大人でありたいと。

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