高野ひと深『ジーンブライド』「社会と向き合ってみようと思えた日に、ふと思い出してもらえるようなマンガを描き続けたい」

高野ひと深『ジーンブライド』インタビュー

自分ごととして捉え、作品に投影できるスピードが上がった

――そういう、こちらが想定しているのとちょっとズレた展開も、思い込みを打ち壊してくれて、素敵だなと思います(笑)。1巻から2巻へも、誰も想像していなかった飛躍をみせましたが、2巻を描き終えてみて、何か手応えはありますか? 1巻を描き終わった時は、「怒りから距離をとれるようになった」とおっしゃっていましたが。

高野:1巻では、日常の中にあるヘルを中心に描いていたので、友人・知人の話だったり、自分自身の記憶と向き合う場面が多かったんですよね。「このマンガの世界、治安悪すぎ!」というお声もたまにいただくのですが、性被害の描写についてはすべて、実際に私の周りの人間が体験したことばかりなので、この物語の地獄を凌駕する現実が、この国にもあるんだよということを可視化させたくて、1巻は、文字通り命を削りながら必死に描いていたなあ、という実感があります。そのせいか、毎日のように吐いてしまったり、マンガを描いていてこんなに体調を崩したのは初めてというほど不調を抱えていました。

――なんと……。

高野:あ、今は元気ですのでご心配なさらないでくださいね! 2巻では、1巻で開示されたSF要素に少しずつ踏み込みつつ、依知の抱えていた怒りや後悔を描くことができたので、ようやく依知やこの物語の輪郭をお伝えすることができたなと、今は少しホッとしています。どういう物語なのか、ちゃんとお伝えしないまま、1巻では地獄を描いていたことに気づいた時は、不安にさせてしまってすみません……という気持ちでいっぱいになったので。

――『私の少年』以上に命を削りながら描かれたこの物語を通じて、ご自身の中で、何か見えてきたものはありますか?

高野:『ジーンブライド』というタイトル、そしてウェディングドレスに身を包んでにこりともしない主人公・依知の絵が浮かんだ時に、結婚式というイベントに感じていた違和感も同時に湧き上がってきました。


「どうして親への感謝の手紙を読むのは新婦だけなんだろう」 

「どうして新郎の勤め先の上司からのメッセージはみんな静粛に耳を傾けるのに、新婦の友達の番になると、とたんにがやがや喋り始めるのだろう」

 結婚式という誰もが笑顔にあふれた幸せな時間の中で、そういった些細なことに、いちいちちくりとしてしまう自身のあり方は、『私の少年』を描いていた頃から変わっていないと思います。

 けれど、『ジーンブライド』を描きながらフェミニズムを勉強することで、ジェンダーへの圧や歪んだ認知を、より過敏に、瞬時に感じ取れるようになったので、そのちくりとした感覚を自分ごととして捉え、作品に投影できるスピードが上がったように思います。

――最後に、3巻を待ち望む読者に向けて、メッセージをお願いします。

高野:3巻は、いよいよ依知の出生の秘密についても明らかになり、ちょっと意外な人にスポットライトが当たったりもします。ちなみに武智ではないです(笑) 物理的にもなかなか分厚い巻になる予定なので、いろいろ予想しながら待っていてもらえましたら嬉しいです。

©高野ひと深/祥伝社フィールコミックス

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