【漫画】谷川史子『おひとり様物語』自分はさみしい人間 でも、ひとりならどこへだってゆけると思う主人公への共鳴

谷口史子『おひとり様物語』(講談社)


 「おひとり様ですか?」とお洒落なカフェで聞かれたとき、筆者が「はい」と笑顔で答えられるようになったのは30歳をすぎてからのことだ。もともとひとりで美術館や映画館、カフェやカラオケにひとりで行くことが多かったが、「おひとり様」だと「パートナーや友人がいない寂しいひと」に見られないか、と過剰に意識をしていた20代だった。寄る辺なさがあった。でも誰かといれば絶対安心なんてないし……とよく考え込んでいた。

 でも、ひとりならどこにでも行けるでしょう? と問いかけてくるマンガがある。それは谷川史子の『おひとり様物語』(講談社)だ。

 谷川史子は1986年にマンガ家デビューをし、2008年に『おひとり様物語』第1巻が発売され、『はじめてのひと』(集英社)を連載している実力派少女マンガ家だ。活躍の場は女性誌だけに留まらず、女子校を舞台にした『清々と』(全4巻)が青年誌「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)で連載されていた。2022年8月に『おひとり様物語』10巻が発売され、完結となった。

 谷川は『おひとり様物語』第1巻でおひとり様の定義を以下のようにしている。

ここでいう「おひとり様」には「独身」、「特定のパートナーなし」の他に「パートナーはいるけれど物理的に離れている(遠距離とか)」「パートナーはいるけれど心が離れている」などなども含まれます。

 谷川の定義で言うと筆者も「おひとり様」になるのだが、孤独とは無縁だ。おひとり様はひとりで何でもできるのだから。そんな気持ちにさせてくれるのが『おひとり様物語』だ。

 『おひとり様物語』はだいたいが1話完結のオムニバス形式で単行本に収録されている。22年9月13日に第10巻が発売された。谷川流の「おひとり様」の生き方が支持されての、満を持しての第10巻、そして完結だ。

 『おひとり様物語』の第1話は構成がよくできていて、谷川の主張が明確に伝わってくる。
 山波久里子、28歳はおひとり様。独身ひとり暮らし。彼氏はいた過去があるけれど、今はいない。仕事は本屋。出勤して退社。楽しみは夜に読む一冊の本。眠り込む寸前まで本を読んで、お昼ぐらいにゆっくり起きる。お散歩がてらにブランチをとる。

 そんな充実したおひとり様ライフを送っている久里子。しかし職場の後輩・アヤに……。

  それって さみしく ないんですか?

  せっかくの休みに ひとりぼっちで 本読んで さんぽして ごはんたべて 映画みてって

  どうなんですか

  山波さんて ともだち いないんですか?

 上のように言われてしまう。アヤにおひとり様を勧めてみるが……。

  いーです   
  なんか   
  孤独っぽいから

 とまで言われてしまう。

 久里子に友だちがいないわけではない。書店勤務で土日休みではないし、久里子は読みたい本は山ほどあるし、買い物も自分のペースでできる。

 おひとり様も毎日が楽しいわけではない。例えば、行ったとんかつ屋でまわりが全員カップルだったり、仕事のミスもする。友人に電話をかけても出ないときも。

  ごくたまに こんな夜もある

  世界で    
  自分は たったひとりなのかも しれないと 

  だれも   
  自分のほうを 向いてくれない 自分のことなど 考えてくれないのではないかと     

  そんな気分になったりする

 久里子の気持ちが痛いほど筆者にはわかる。毎日は楽しいけれど、自分がさみしい人間だと心のどこかで思っている。しかし現代社会ではそう簡単には孤独にはなれない。

  独りじゃないと
  知っているから

  おひとり様は
  どこへだって
  ゆけるのだ

 1話は最終話を読み、再読するとまた深みが増す内容になっている。

 おひとり様はどこへだって、遠くまでゆける。そんな確信に満ちた1話は最終話にも表れている。谷川史子は10巻分おひとり様について描いていた。次は私たち一人ひとりが「おひとり様物語」を紡ぐときなのかもしれない。

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