『幽☆遊☆白書』蔵馬と少女漫画の男性キャラは何が違う? 女性読者が推し続ける三つの理由

 昭和が終わるころに生まれ、1990年代に思春期を迎えた世代は、上の世代より二次元の男性キャラにのめりこむことに抵抗感がない人が多い。特に女子校や男子校で周囲が同性ばかりだと「自分ってオタクで」と言っても否定されることは少なかったのではないだろうか。

 当時、私を含むオタクの少女たちは、「なかよし」(講談社)、「りぼん」(集英社)、そして「花とゆめ」(白泉社)に登場する男性キャラに魅せられた。彼らはみな女性読者に愛されるようなキャラクター設定がされていた。

 「推し」という言葉がまだない時代だったが、男性キャラ同士をカップルに見立てる「腐女子」、二次元の男性に本気で恋をする「夢女子」という呼び方はすでにあった。私はそのどちらでもないオタクだったので、オタク女子界隈では少数派だったが、それでもやはり好きな少女漫画にお気に入りの男性キャラを見つけるたびにうれしくなった。

 少年向けの作品は、テレビでアニメ化されたものをよく見ていた。

「同年代の男の子が好きそうな女性キャラがたくさん出てる。私たちの読む少女漫画に、女性が好きそうな男性が出るのといっしょやなあ」

 子どもながら、そんなことを思った気がする。だが、ある夏休み、朝の再放送アニメを見ていたとき衝撃が走った。一度死んで生き返った主人公·幽助が霊界探偵として活躍する『幽☆遊☆白書』(以降、「幽白」と略す)という少年向けアニメに、お気に入りのキャラ、今でいう「推し」を見つけたのだ。

 彼は蔵馬という名前だった。

「飛影と蔵馬、どっちが好きだった?」

 1990年代前半、『週刊少年ジャンプ』(集英社)はすでに黄金期を迎えていた。

 ヒットした連載漫画は『幽☆遊☆白書』だけではなく、冒険や友情をテーマにしたバトル漫画『ドラゴンボール』やバスケットボールに励む少年の青春群像劇『スラムダンク』が同時期に連載されていて、少年たちのあいだでは「今のジャンプ、どのページをめくってもすごい。やばい」と言われていたそうだ。

 少年漫画を手にとる女の子も増えていたが、私はお小遣いで「なかよし」と「りぼん」を買うのに精いっぱいで、少年漫画雑誌を買う余裕がなかった。

 同じように少年向けの作品と出会う機会がアニメしかなかった同年代の女の子はたくさんいた。そして幽白は1994年に連載が終了しているので、私たちがアニメで幽白の再放送を見たのは連載終了直前、もしくは完結後ということになる。

 当時はそんな背景を知らず、端正なルックスで聡明な蔵馬に「少年向けにもこんなかっこいいキャラがいるんだ…」と驚かされた。

 蔵馬が薔薇を出して「ローズウィップ」という技を繰り出すたびにわくわくしたり、卑怯な敵と戦って傷だらけになる場面にどきどきしたりした。後にそれが「萌え」という感情であることを知ることになる。

 再放送、そして夏休みが終わって学校へ行くと、女の子たちが「飛影派? 蔵馬派?」という話題で盛り上がっていた。

 主人公ではないこのふたりの男性キャラは、少女たちの心を射止めていた。

 それは大人になっても変わらず、幽白の話をするたびに「で、飛影と蔵馬、どっちが好きだった?」と聞き合うことがある。

 蔵馬になぜ少女たちが夢中になったのか、客観的に考察したい。まず蔵馬は、女性向け漫画に登場する少年が持つ魅力すべてを網羅していた。

 中性的で端正なルックスであることは、読者だけではなく作中でも登場人物から言われているので、設定もそうなっているのだろう。また彼は、実は妖怪であり、人間に憑依して生きているという複雑な過去があった。

 ここでまず「悲劇的な美少年」としての蔵馬が確立する。

 彼はそれに加えて少女漫画のヒロインの相手役が持ちえない特徴もあった。いつも冷静沈着でやさしい蔵馬だが、自分の仲間や大切な人が傷つけられると、敵が驚愕するような残忍性を出す。好戦的な妖怪である飛影も、蔵馬を敵にまわしたくないと思うほどの強さと恐ろしさだ。

 彼は危機的な状況で時に妖狐・蔵馬となり、人間の蔵馬とは異なる外見で戦う。そうなったときの蔵馬は、まるで性格まで変わったように感じられ、敵に対して容赦をしない。だが彼はむやみやたらに人を傷つけることはもちろんしない。いつも大切なだれかのために戦うのである。蔵馬好きの少女たちは、それを見て、蔵馬の大切な人に感情移入をする。

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