掟ポルシェ「サイゼリヤに文句を言ったらバチが当たります!」 不味いものを不味いと言える男のグルメ論

掟ポルシェが語る、男のサイゼリヤ論

 掟ポルシェの新刊『食尽族~読んで味わうグルメコラム集~』(リットーミュージック)は、コンプライアンス志向が強まる現代社会において、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと言えることの痛快さを思い出させてくれる。

掟ポルシェ『食尽族~読んで味わうグルメコラム集~』(リットーミュージック)

 本書はニューウェイヴバンド・ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当、ライターでもある掟ポルシェの崇高ともいえる食べ物への執着を、持ち前のユニークな文体でしたためた一冊だ。「こっから先、読まない方がいいです!マジで!」という前書きで始まり、続く本編開始の早々から「母の味」にNOを突きつけ、福岡の甘い醤油や柔らかいうどんをぶった切る。さらに中盤からは毒舌を中和するかのように並んだ愛を感じる賛辞の数々。読み始めたら最後、笑いと食欲が止まらなくなるはずだ。

 出版から2カ月が経ち、既に刊行イベントなども行われ、ネットのレビューも高評価が付いている本作。しかし、この本にはまだ「音楽と食の共通性」や「ジャンクフードは大人の特権」、「サイゼリヤ論」など、フォーカスすべきトピックが残されている。これを聞かずにいられない! そこに踏みこむべく、掟ポルシェに話を聞いた。【インタビューの最後にチェキプレゼントあり!】

不味い/旨いは個人の嗜好

――本書は、音楽エンタメサイト「耳マン」で3年に渡った連載をまとめたものです。改めて、連載のきっかけを教えてください。

掟ポルシェ(以下、掟):そもそも連載の担当編集者が自分の髪を切ってくれていた元・美容師さんなんです。あるとき彼女が「今の仕事を辞めて編集者になる」と言って本当に編集者になって、連載を依頼されたので自分のバイト歴について書きました。それまでのコラムは思いつきの嘘を並べるスタイルで、それゆえ短い文章しか書けなかったんです。体験したことを素直に書くのは芸がないなと思っていたので。でも、連載を通して、意外と事実ベースの内容でも面白く書けるなと気づきました。

 それを『男の!ヤバすぎバイト列伝』として出版してもらったところ、意外と売れました。それで、次の連載は何にしようかなと考えまして、編集者に「病歴ですかね?」などアイデアを出していたら「食べ物も好きですよね?」と提案されて。「好きですけど、面白くなるかはわかりませんよ……」と言いながら始めたのが、この連載でした。

――各トピックはどのように選びましたか。

掟:その元・美容師の編集者には、なんと編集者としての確かな才能があったんですよ(笑)。食の好みについて話して、彼女に使えそうなものをピックアップしてもらいました。次に何を書いたらいいかなどのアドバイスも的確でしたし、ネット連載と本の構成ではエピソードの順番も違っていて、おかげで読みやすい仕上がりになっています。原稿を書くのはこちらの仕事ですが、本や雑誌は編集者の意向ありきですから、そこは恵まれましたね。

――目次の後に「筆者の嗜好であり全員に当てはまる内容ではございませんことをご了承くださいませ」という注釈がありました。自分の好きなものではなく、嫌いなものについて正直に書くのは、なかなか難しいことだと思います。

掟:不味い/旨いは個人の嗜好なので、本来は好き勝手言って良いはずなんですよ。例えば2015年に移り住んでいた福岡は自分の食の好みと真逆で、うどんが柔らかいんです。福岡の人は郷土愛が強いから、「うどんは柔くないとだめばい」と言う意見の方がほとんどだけれど、実際のところ全国に広がってないじゃないですか。でも、豚骨ラーメンは全国にあるでしょう? 本当に美味しいものなら全国区になりますから、うどんは柔らかいほうが美味しいと思ってるのは福岡の人たちだけだということが証明されているわけです。今の日本人が慣れ親しんでいるうどんの硬さは讃岐うどんのそれで、その前の基準はソフト麺でした。冷凍技術の向上によって讃岐うどんのあの硬さが冷凍食品として簡単に再現できるようになり、讃岐うどんの硬さが日本のうどんのデフォルトとして認識されました。今、全国に広まっているチェーン店だって、大体が讃岐うどん屋なのはそういうことです。そういう感想を、面白く読めるように配慮しつつも、多彩な罵詈雑言を駆使してボロクソに書きました。「ごめんなさいあくまでも個人の感想です!」とあらかじめ断っておけば何を書いてもいいと思っている最悪な本です!

――本には「信濃町にあるメーヤウのレッドタイカレーの味をコピーして自分で作った」という話も出てきます。まるで音楽をコピーするかのようで興味深く感じました。

掟:結局、自分の食の好みの基には“貧乏”がありますね。最初にあのカレーを食べたのは大学生の時で、付き合っていた彼女が信濃町に住んでいたんですよ。当時のメーヤウは駅前にあったバラック小屋で、慶応の学生をターゲットにしているからか、夏休みと冬休みがそれぞれ1カ月あるというかなりユルい営業形態で。「食べると気絶するくらい辛いらしい」と噂になっていて、どんなもんかと食べにいったんです。そこで一番辛い「大辛」を彼女が食べて、その下の「辛口」を自分が食べまして。「大辛」は本当に辛かったけど、「辛口」はオリジナリティに満ちた辛さと旨さで一発で虜に。で、「このカレー毎日食べたいけど、お金がない」ということで、じゃあ自分で作るかと。

――具体的にどのようにコピーしたのかも知りたいです。

掟:あのカレーの特徴は、サイコロ切りの大根が入っていることですが、最初はその下処理に手こずりました。大根をそのまま入れてみたら、臭みが結構あって煮込んでもエグ味が残る。だったら下茹でしてから入れなきゃダメだ、ということで生姜とともに柔らかくなるまで煮る、それも水をよく切らないといけない、と研究して少しずつ味を近づけていきました。音楽でいうと「あ、この曲って構造的には難しかったりするんだなあ。でもクセを掴めば簡単だ」みたいな。

 それから、ある程度コピーできるようになると「そこまで似てなくても、美味しければいいかな」という方向性になっていきました。完成度を上げることにもそこまで燃えなくて、ある程度のコピーでいいやと。自分にとって必要なのは聴いていいと思える音楽とか、食べて美味しいと思える食べ物なので。最終的に今となっては「あまり似ていないカレー」になってますね(笑)。

――つまりコピーバンドを目指すのか、あくまでカバーなのか、という違い?

掟:あとは弾く楽器にもよるじゃないですか。ギターもストラトキャスターやテレキャスター、レスポール、SGかによって音色が全然違います。料理で言えば材料。それ風に作ろうと思うと、一番難しいのはそこなんですよ。例えば、本にも書いたのですが、ココナッツミルクの味ってブランドによってまったくの別物で。コピーする時はそれを特定して同じものを使うところから始めなきゃいけない。

 それから「リアルタイ」や「チャオコー」などの一般的に手に入るブランドは季節によって味が変わるんです。特に冬場に買うと脂っぽかったりして、似せて作っても油脂(=ココナッツオイル)が浮いてくるから、掬って捨てなきゃいけなくて。油脂は実際メーヤウのカレーにも結構入っているんですけど。

 そうしたらある日、買い物に行っている大久保の業務スーパーが「リアルタイ」と「チャオコー」の取り扱いを止めて、聞いたことのないブランドのココナッツミルクを置き始めたんです。それを使うとギターじゃなくてこれはもうベースなんじゃないかと思うくらい異常なまでに濃厚で、似ても似つかないものしか出来ない。そこで完コピは諦めました。

 それをイベント「スナック掟ポルシェ」で出すと「こっちの方が美味しい」という人もいるんですが、もうメーヤウの完コピではないので、自分で食べると「これじゃないんだよな」感がある。コピーするにも難しい材料しか手に入らないようでは無理なんで、自分独自のカバーくらいに着地しました。まぁ、最終的にうまけりゃいいんです。

――音楽でいうところの食材が、楽器や音色だと。

掟:そうですね。あとは調味料もそうで、あればあるほどいいです。本にも書いた通り「さしすせそ」だけでは旨い料理はできませんから。コピーしようと思ったら、できるだけ調味料のメーカーやブランドを同じにすることが大事。それから完コピじゃなくて「美味しければいいや」という方向に持っていくことですね。

――ラーメン屋「来来亭」での味のカスタマイズを、ギターのアンプのツマミに例えていましたが、食と音楽は近いところがある?

掟:音楽がすごく好きですから……やっぱり例えとして出てきやすいですね。似ているというより、この例えしかできないというのが実際のところです。映画が好きな人だったら「○○の映画風に」となるかもしれませんが、俺は映画もあまり観てないし、ゲームのこととかも一切知らないですから。いい音楽や美味しいものと出会うと「どうやって作ってるんだ?」と気になりますが、最終的に分析しきれないほど複雑なものが好きですね。

 同じジャンルが全部好きかといえば、そうでもないんです。自分はデスメタルではカーカスというバンドが異常なまでに好きなんですが、同じデスメタルでもカーカスの元メンバーであるマイケル・アモットがやっているバンド、アーチエネミーはカーカスのように変拍子を用いたりもしないし、意外とクリーンな音色でエモーショナルな音楽を目指しているから、自分の好きなポイントとはズレていて全然ダメなんですよ。

 料理も同じように、ラーメン好きかと聞かれれば「そうでもない」と答えるしかなくて。だからひとつの店を見つけたら、食べ歩きをやめて通い詰めるんです。90年代から流行ったスープカレーも東京で通い詰めた結果、結局「スープカレー」とは謳っていない五反田「かれーの店 うどん?」だけあればいいやと。デスメタルはカーカスだけあればいいや、という感覚と似てますね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「著者」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる