『チェンソーマン』藤本タツキが認めた漫画『宇宙の卵』が凄まじい! 危険な問いに満ちた作風を考察

漫画『宇宙の卵』の凄まじい作風

 漫画アプリ「少年ジャンプ+」で、7月23日から土曜日の隔週配信がスタートした程野力丸の『宇宙の卵』は凄まじい漫画だ。舞台はフィリピンの首都マニラ。ゴミの山から鉄くずを拾う仕事をして暮らしている日本人のルイは、極貧の苦しい生活の中で学校に通うためのお金を少しずつ貯めていた……。

 本作は「ジャンプ+」での連載を読者投票で決める「少年ジャンプ+連載グランプリ2020」のゴールドグランプリ受賞作だ。特別審査員を担当したのは『チェンソーマン』(集英社)の作者・藤本タツキ。本作に対して藤本は「面白かったです! 構図をもっとこだわるべきですが、面白かったので別にいいです。絵に関しては、連載で戦うのなら画力を上げるか、作画をつけるべきストーリーだと思います」とコメントしている。作画に関しては厳しい評価だが、「面白かったので別にいいです!」の一言に、本作の魅力はすべて言い尽くされている。

 まだ第1話のみの配信だが、提示された世界観が実に面白く、同時にとても現代性と哲学性があり、今こそ語られるべき物語がここにあると感じた。何より続きが気になる。連載漫画の魅力は「続きはどうなる?」という次回への引きで、その点においても『宇宙の卵』の第1話は完璧だった。

※以下、ネタバレあり。

 あと少しで学校に通うお金が貯まるところだったルイだが、泥棒グループに入らないか? という少年の誘いを断ったために、逆に家の中に隠していたお金と米は全て泥棒グループに奪われてしまう。ルイはゴミの山で見つけた拳銃で自殺しようとする。しかし、弾が入っていなかったため、死ぬことすらできない。絶望のどん底にいるルイ。そこに黒い石の上に置かれた白い卵が現れる。ルイは卵を手に取る。手から滑り落ちた卵が地面に落ちて割れる、暗闇が広がり世界は真っ黒となる。

 やがて、歴史の教科書に書かれた年表が表示される。「第二次世界大戦」や「ヤルタ会談」といった世界史の流れが書かれているが、1959年に「宇宙の卵 破裂」という、聞いたことがない言葉が登場する。そして、ルイが卵を割ったことで広がった“黒い物質”の影響によって、7日間で5億7千万人が死亡し、その後、生き残った人類に「宇宙の力」が発現したことが語られる。その後、黒い物質の拡散後にマニラで起きた惨劇と、以下のような教科書の文字が、カットバックされていく。

〈黒い物質を身に受けた人々は、その直後から激しい頭痛に見舞われ立つことさえもままならず平均5日間気絶や嘔吐を繰り返した。〉
〈このことにより、7日間で全世界の5歳以下、並びに60歳以上の人口の約3割が絶命 全人口の2割弱である約5億7千万人が命を落とした(第一波)〉
〈また症状が回復した人々には、新たな異変が確認された。〉
〈つまり「宇宙の力」の発現である。後遺症ともギフトと呼ばれる「生物を圧潰する力」が全人類に備わった。〉

 生物を圧潰する力とは文字通りの意味で、劇中では謎の男が人間の身体を残酷な形状にへし折る姿が挿入される。黒い物質の影響で気絶したルイは、この謎の男に助けられ、学校の中で目を覚ます。そして、〈1959年、「簡易殺人社会」と呼ばれる近代社会が幕を開ける。〉という教科書の文字が映されて、第一話は終わる。

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