『さよなら絵梨』から『チェンソーマン』へーー藤本タツキは“過酷な現実”を吹き飛ばせるか?

『さよなら絵梨』から『チェンソーマン』へ

 劇中には優太が父親から「優太は ちっちゃい頃から 何にでも ファンタジーを ひとつまみ 入れちゃうん だよね」と言われる場面があるのだが、母親の死を描いた映画「デッドエクスプローションマザー」の「爆発オチ」は「ファンタジーをひとつまみ」入れることで現実を乗り越えようとする優太の心情の投影だった。

 その姿は『ファイアパンチ』や『チェンソーマン』に露悪的な暴力描写を盛り込み続けた藤本タツキの姿勢とどこか重なる。その意味でも一見バカバカしくみえる「爆発オチ」は、作者にとっては“原点回帰”と言える描写だ。

 一方、絵梨が「本当に吸血鬼だった」というオチは、どれだけ荒唐無稽なファンタジーを描いても、あっさりと現実に追い抜かれてしまう創作者の困惑が、描かれているように感じた。

 7月13日。藤本タツキは『チェンソーマン』第2部の連載を「少年ジャンプ+」でスタートさせた。第1部以上にハチャメチャな漫画となっている『チェンソーマン』を読んでいると、かつてはフィクションの領域だった戦争、疫病、暗殺が侵食してきた新しい現実を越えるフィクションを生み出そうと、悪戦苦闘しているように見える。

 果たして、藤本タツキは漫画という爆発で過酷な現実を吹き飛ばせるのか? 連載の行方を見守りたい。

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