色覚障がいやジェンダーの壁を越えて活躍するポップアーティスト、テネシー・ラブレス・インタビュー
――テネシーさんご自身は、先天的な視覚障がいを抱えていて、ほとんど色の区別がつかないと思います。そういったハンディを抱えながらも、絵の道に進まれました。
テネシー:絵は幼い頃から大好きで、ずっと描いていました。自分には才能があると思っていても、色覚障がいをもっていることで「プロにはなれない」と周りから言われていたんです。でも本格的に絵画を手掛けたときに「やっぱり自分には何かあるな」という感覚があったんです。だからプロのアーティストになるためにサバンナ芸術工科大学(※)に進学したものの、大学でも周囲から「向いていない」と言われ、壁にぶつかりました。
自分はアーティストになれないんだという挫折感を味わって、退学することになり、しばらく絵を描かない期間もあったんです。でも心の底ではアートをやりたいと思っていて、それがずっと続いていた。やっぱり、夢を持ったからには叶うまで頑張りたい、そう思っていました。
※Savannah College of Art and Design(SCAD)。アート&デザインの名門校。現在でもアメリカにおいて常にTOP4にランクインしているといわれるほどの人気の高い大学。
――夢を叶えるため努力して進学した名門校でも、アーティストに向いていないと言われた……。挫折感を抱える中、再び絵を描き始めたきっかけは何だったんですか。
テネシー:挫折した後にアートをやめて、ドラァグクイーンをやっていた時期があったんです。ある日、BARのナプキンに絵を描いていたところ、ドラァグクイーンの仲間がそれを見て「上手いね! 私のことも描いて!」と言ってくれた。すると次第に「私も」、「私も」という声が増えていって、気づいたら、たくさんの作品が出来上がっていったんです。その経験がきっかけで、再びアーティストになることを決意しました。
――ドラァグクイーンたちのおかげで、アートの道に戻れた。
テネシー:当時アメリカでは、ドラァグクイーンにはタブーなイメージがありました。でも自分は、いろんな意味で“外れ者”。社会には合わないとされるような存在だったから、唯一共感できる存在がドラァグクイーンだったんです。ドラァグクイーンは隠されがちなジェンダー問題を提議して、皆に見せるような存在だったので、その行動に対する共感がありました。そんな敬愛し尊敬する人たちから「描いて」と言われたことが、とても嬉しかった。加えて、アートの道から一度は外れた自分が、他人に認められた嬉しさもありました。ドラァグクイーンのシリーズは、その人たちへの感謝の気持ちを込めた作品でもあります。
――素敵なストーリーですね。ドラァグクイーンのシリーズも、カラフルでポップな色使いが印象的です。その色使いは独自の色彩概念から生まれるものとのことですが、実際どのように描いているんですか。
テネシー:色彩概念は独学で身につけました。マニュアルがないので、自分で探って、システムをつくり上げる必要があったんです。例えばこの絵具を手に取ってみると、パッケージに“色のコード”が書いてある。例えばTW6だと、チタンホワイトを指しています。色にはこうした数学的な一面があるということに、あるとき気付いたんです。
それから、色とコードの組み合わせを全て暗記しました。色のコードを理解することで、たとえパッケージが違ったとしても、同じ色であれば、同じコードが書いてあるという共通点もわかるようになったんですね。今ではどういう色を使えばいいかイメージながら、色のコードを調べて、塗る場所も確認しながら、色を選び配色しています。
色というのは、客観的で概念的なもの
――驚きました。数学的なアプローチだったのですね。
テネシー:色が見える人と違って、私にとって色というのは、客観的で概念的なものです。自分で見て感じるものではなくて、概念でしかないなので、自分の気持ちがそこに入ってこないんです。完全に“データ”として扱っていますね。なので逆に、色が正常に見える人に対して、こういう色を使うのはどうですか? という指摘ができるくらいの知識もあるんですよ。
色が見えないぶん、パターンの集合体の中から、違うパターンを見つけるのが、自分には向いていると思います。一時期、アメリカのAmazonで働いていたことがあるのですが、データ分析して違うことを見つける業務が、自分はものすごく楽だったんです。この能力はアートの分野だけでなく、あらゆる場面で役に立っています。
――努力を忘れず、常に良い方向に考えることを大切にされて、夢を持ち続けたからこそ、現在のご活躍につながっていることがよくわかりました。
テネシー:ありがとうございます。
――アートを通して伝えたいことが明確にあるテネシーさんですが、創作活動の上でのインスピレーションの源は、どういうところにあるんでしょうか?
テネシー:どこからインスパイアされるのかは、正直自分でもよくわからない部分があるんですよ。でもとにかく、毎日毎日、絵を描いています。その時々の物事から感じたイメージを絵にしている感覚ですね。だから旅をするときは、そこで見たもの、映像、イメージを、――私は「タイム・スタンプ」という言葉を使っているんですけれども――記録として描いています。例えばポスター、標識、漫画、写真など日常の三次元世界を二次元の絵に転換し、現実のイメージを物体化する。さらに、アメリカの大衆文化(ポップカルチャー)を大量に取り入れることによって、ポップアートに変化させています。自分の作品は全て、その時々の物事からイメージして描いたものです。
影響を受けたアウトサイダー・アート
――一番影響を受けたアーティストは誰ですか?
テネシー:最も影響を受けているのは、ハワード・フィンスター(HOWARD FINSTER)です(※)。他にも何人かいますが、大きく言うと、「アウトサイダー・アーティスト」と呼ばれる、大学等で専門的な訓練や教育を受けていないアーティストに影響を受けました。アウトサイダー・アーティストの中には、私の生まれと同じジョージア出身のアーティストも結構いて、そこにもシンパシーを感じます。彼らは専門知識がないぶん、魂で絵を描いている。ともすると子どものような描き方に見えることもあり、見下されたり、田舎者と呼ばれたりすることもあるのですが、彼らはプライドを持って絵を描いている。大学に行くとその逆で、専門的なスキルは増えるけど、心から溢れ出るものが少なくなる気がします。素の気持ちのまま描いていく、というところが、自分の性に合っているんだと思います。
※1916~2001。アメリカ・ジョージア州の牧師で、アウトサイダー・アーティストの一人。
――似たジャンルに「フォークアート」があります。
テネシー:アウトサイダー・アートの中には、メッセージ性も強く、宗教的な意味合いが強い作品もあるのですが、そこは私とは違うところです。組織がアートを決めるのではなく、アートを決めるのは、あくまでも人々です。
――ちなみに、日本のアーティストの中で一番好きなアーティストは誰ですか?
テネシー:草間彌生さん! 彼女には本当にインスパイアを受けています。草間さんの作品には体験型のアートが多く、そこに大きく影響を受けていますね。草間さんのアートは、奥行きのある、深みのある作品ばかりで、この世界をより良いものにしてくれるものだと思います。私自身、体験型のアートを手掛けることもあるのですが、ずっと草間さんをロールモデルとして、リスペクトして、――もちろん真似はしていないのですが――自分もそういうアーティストになりたいと、創作活動に取り組んでいます。
――草間彌生さんといえば、今年日本では瀬戸内国際芸術祭2022も開催されます。「TENNESSEE LOVELESS 展」はこれから日本各地を巡回することになりますが、東京以外でテネシーさんが訪れてみたい土地はどこですか。
テネシー:やっぱり京都ですね。京都は日本の文化や歴史が詰まっていて、建築物も素敵なものばかり。いつか訪れてみたいです。あとは、大阪! 大阪は、なぜかわからないのですが、呼ばれている気がするんですよ。自分に合っているものが大阪にあるのかわからないけど、夢に出てくるくらい惹かれています(笑)。残念ながら今週末(6月26日)にはアメリカに帰国することが決まっていて、次いつ日本に来れるかは調整中なのですが、また必ず戻ってきたいと思っています。
――ぜひまた日本にいらしてください。最後に、アーティストとして、次なる展望を教えていただけますか。
テネシー:私にとって、今回のイベントは単なる展示会ではなく、これからの創造における無限の可能性を秘めた出発点です。次回は“東京”というテーマに特化した展覧会がしてみたいですね。展示会の名前、展示作品、体験型なのか展示型なのか……今回はチームワークでかたちにしていきましたが、今後は監督のような立ち位置で、自分の展覧会をセルフプロデュースすることにチャレンジしたいと思っています。
<テネシー・ラブレス>
【プロフィール】
テネシー・ラブレス(Tennessee Loveless)は、色彩や パターンを用いて視覚的なインパクトを大胆に表現する アメリカ人アーティストです。その才能はディズニーア ート部門にも見出され、世界でも数少ないディズニー公 認アーティストに。ディズニーの前例を破って出版し た、作家名を冠した個人作品集「The Mickey Mouse TEN×TEN×TEN Contemporary Pop Art Series」は、米国 でベストセラーとなり、2012 年には米の最新カルチャー を発信するアート誌「instinct」にて「Artist of the Year」を受賞。近年は世界各国で個展開催をするなど、 今、世界が注目する現代アーティストです。
【TENNESSEE LOVELESS展 開催日程】
■会期・会場
〇池袋会場(展示・販売会)
サンシャインシティ展示ホールD 2022年7月4日(月)
〇名古屋会場(展示・販売会)
ウインクあいち 8F展示場 2022年7月16日(土)~7月18日(月)
〇京都会場(展示・販売会)
京都市勧業館みやこめっせ B1F展示場 2022年7月22日(金)~7月25日(月)
〇大阪会場(展示・販売会)
梅田スカイビル タワーウエスト3F ステラホール 2022年7月28日(木)~8月2日(火)以降、全国巡回予定
オフィシャル情報リンク
・ホームページ :https://www.10scloveless-event.jp/
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