【漫画】祖父が遺した包丁が教えてくれたことーーものづくりの精神を伝える漫画『包丁』が話題

ーーおじいさんの夢を追う姿が結果として晴翔くんに伝播した様子から様々なことを考えた作品でした。創作のきっかけを教えてください。

浅山わかび(以下、浅山):ものづくりを真剣にやっている姿を描きたくて本作を創作しました。むかしからものづくりに興味があり、高校では木工芸を学んでいました。以前は生きていた木が家具や工芸品に生まれ変わらせる体験をして、ものづくりの素敵さを感じました。

 また自分の手でつくり上げると愛着を持てると感じています。その思いは本作のおじいちゃんの姿にも表れているのかなと思いますね。手作りのものが孫である少年の手に渡ったとき、彼は想像したと思います、「どういった感情でおじいちゃんはつくってくれたのだろう」と。そう考えていると本作のストーリーができあがりました。

ーー作中でおじいさんは晴翔くんのために、というよりも自分のために包丁をつくっていたと感じました。

浅山:私は「がんばれ」と背中を押されるよりも、前を進む人の背中を見て歩き出すタイプの人間なので。そんな価値観も本作に表れているのかと思います。

ーーなぜおじいさんは習作1号となる包丁を晴翔くんに託したのでしょうか?

浅山:あたまの片隅には晴翔くんの存在があったとは思いますが、おじいちゃんには晴翔への応援の気持ちはなかったと思います。次の包丁はもっと上手くつくりたいぞという思いだけがあったのかと。このシーンは構図や台詞に悩み、何度も書き直しました。

 放任主義でありながら、自分の孫を信頼している。間違った道へ行かないだろうという信頼があるからこそ手放して、応援もしないけれど否定もせず、ただ放っておく。孫は行きたい道へ進むだろうし、自分はもっと違う道へ行きたいーー。そんな家族の関係なのかと思いますね。

ーー創作活動をはじめたきっかけを教えてください。

浅山:むかしから漫画が好きで、高校時代に悩みながらもマンガ学科のある大学へ進学しました。入学時に漫画家を本気で目指し、ダメだったらそのときに考えようと思っていました。漫画家にならないという選択肢はなかったです。がんばったらマンガ関係の仕事に就けるかとも思っていたのでたくさん勉強しました。

ーー漫画を描くなかで意識していることは?

浅山:漫画は娯楽だと思っているので、お仕事として“面白い”ものを描きたいと思っています。今描いている『ラストカルテ -法獣医学者 当麻健匠の記憶-』に関して言うと、面白い漫画にするため“リアルさ”を意識していますね。動物の行動とか、獣医さんの心情とか。リアルに描くことで読者の方を傷つけてしまうこともあるかもしれませんが、現実から逃げないで描かないといけないと思っています。

 話づくりに関しては調べたり取材して、もしも私がこの動物だったらどう生きるのかと没頭して物語を考えるようにしています。

ーーリアルさを求めることは徹底して調べる必要があり、とても大変なことかと。

浅山:私は宇宙や恐竜が好きなのですが、それらを題材に作品を描いている漫画家さんたちは見たことのない世界を想像して描いていますよね。獣医師の世界や包丁を打つ鍛冶場は直接訪れたり、インターネットで調べたりすることができます。想像で描くことを思うと、まだまだ自分は楽な仕事をしているのだと思えるのです。

ーー今後の目標を教えてください。

浅山:大きな目標ってないんですよね。日々レベルアップしようという思いはあって、絵やお話づくりをもっとうまくなりたいです。日々努力して、今よりも成長するために“漫画を描き続けること”を目指していきたいと思います。

■書籍情報
動物たちの感情を想像し、生死の姿から魂を紡ぐ。浅山わかび氏の最新作『ラストカルテ -法獣医学者 当麻健匠の記憶-』コミックスが発売中!

『ラストカルテ -法獣医学者 当麻健匠の記憶-』(1)
著者:浅山わかび
出版社:小学館
発売日:2022年3月17日

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