イギーはなぜスタンド使いの野良犬になった? ジョジョのスピンオフ小説『野良犬イギー』が熱い
本書のストーリーは、これでほぼ言い尽くした。実にシンプルである。だが、読み出したら止まらない面白さだ。イギーという名のボストンテリアは、ブルックリンの富裕層の男に飼われていたという。それがなぜスタンドを使う、野良犬になったのか。人間に隔意を抱くイギーと、アヴドゥルのスタンドによる戦いが熱い。スタンドのユニークな点は、個々の能力が具現化する点にある。つまり絵としての魅力に満ちた、漫画映えする能力なのだ(もともと漫画なのだから当たり前だが)。
その漫画に、本書は負けていない。もちろん『ジョジョ』を読んでいる人なら、スタンドの絵を知っているので、容易にイメージが浮かぶだろう。知らなくても、大量に挿入された荒木飛呂彦の絵が手助けになる。だがあえて、文章だけでも問題なく楽しめるといいたい。それほどバトルの描写が優れているのだ。『ジョジョ』が好きだという乙一の想いが伝わってくる、小説ならではの戦いを堪能できるのである。
こうした『ジョジョ』に対する乙一の想いは、他の部分からも窺える。たとえば人物の名前。はっきり名前が出るのは『ジョジョ』の登場人物(と、イギー)だけなのだ。原典への敬意と愛情というべきである。また、イギーとアヴドゥルの過去に触れている点にも留意したい。特にアヴドゥルの父親のエピソードは重要だ。それに第三部のアヴドゥルの行動を重ね合わせると、感慨深いものがあった。これもまた原典への敬意と愛情の表明なのである。
と、いろいろ書いてきたが、本書の一番の喜びは、イギーとアヴドゥルに再会できたこと。嬉しい。本当に嬉しい。『ジョジョ』のファンならば、この気持ちを分かってもらえるだろう。