面の『ハケンアニメ!』、点の『アニメタ!』ーーアニメ制作の裏側を描く2作を比較

『ハケンアニメ!』と『アニメタ!』を比較

 アニメ業界で働く人々の生き様を描いた、辻村美月氏の『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)。その実写映画が公開中だ。スクリーンには、主人公の新人アニメーション監督・斎藤瞳(吉岡里帆)を筆頭に、葛藤や苦しさを抱えながらも「ただただ、いい作品を作りたい」という情熱を持ってアニメ制作に臨む人々の姿があった。

 このアニメ制作現場にあふれる熱狂、そして愛は、花村ヤソ氏の『アニメタ!』(講談社・月刊モーニングtwo)でも浴びることができる。

※本記事では、漫画『アニメタ!』と映画『ハケンアニメ!』の内容に深く触れています。

動画マンの成長と苦悩を描く『アニメタ!』

 映画『ハケンアニメ!』が描いたアニメ業界の裏側は、面だと思う。現場でどんな人がどう働き、作品が世の中にどうやって届くのか、アニメ制作の全体像をこの世界に詳しくない人にもイメージしやすい形で描いていた。

 一方『アニメタ!』が焦点をあてているのは主にアニメーター、なかでもアニメーションの動きを生み出す「動画マン」の仕事だ。同作は、アニメが好きという熱意だけで全くの未経験からアニメーターの門を叩いたユキムラこと真田幸(さなだみゆき)の成長を通して、業界の裏側に迫っている。

 ユキムラは、アニメが好きとは言え、絵が特段上手いわけではない。加えてアニメーションを学ぶ専門学校などには通っておらず、原画の線をなぞる「原トレ」という動画マンの基礎も知らなかったほどだ。自身の遅々たる成長速度という不安に彼女は、何度も押しつぶされそうになる。しかし描いて描いて描きまくり、少しずつ成長を遂げていくのだ。この泥臭さが、ユキムラの深いアニメ愛を象徴している。

 もちろん映画『ハケンアニメ!』でも、登場人物の成長は描かれていた。瞳は物語の中盤まで、作品のPRのためといって取材を受けたり意図しないタイアップをしたりするプロデューサー行城の行動に納得していない。しかし最終的には、かつての自分と同じような孤独を感じている人に作品を届けられるならと、嫌がっていた雑誌取材を堂々と受けている。

 ただ映画『ハケンアニメ!』では、瞳が憧れのアニメーション監督・王子千晴と同時間帯放送となった自分たちの作品の視聴率を競う、いわゆる「覇権」争いをするビジネスバトル的展開が繰り広げられた。数億円にものぼるといわれるアニメの制作費。これを回収するために行われる関係各所とのやりとりも描かれたことで、より俯瞰的に業界の全体像という形でアニメの裏側が伝わってきたのだろう。

立場が違えば、見える課題も違う?

 またこの金銭面の描き方でも、『アニメタ!』と『ハケンアニメ!』で違いが見られた。映画『ハケンアニメ!』で触れられた金銭面の話題は、売上、制作費の回収だったが、『アニメタ!』では賃金の話が主だ。ユキムラは憧れのスタジオに入社できたはいいものの、業務委託の出来高制という新人には酷な契約内容で働いている。5日をかけてなんとか完成させたはじめての動画は、時給換算でなんと5円。いくら好きなこととはいえ、食っていけるかどうか、ユキムラだけでなく読者も不安になってしまう展開だ。

 このように監督やプロデューサー目線とアニメーターの目線とでは、見えている金銭面の問題点も異なるように思えた。しかしアニメーターの賃金も、莫大な制作費の大切な一部だ。『アニメタ!』では、ユキムラに厳しくも期待を寄せる監督・九条が作中で、「好きでやっている仕事でも、それに見合った賃金は支払われるべき」、「自分の作品に貢献してくれたスタッフにはやりがいだけでなく金銭面でも幸せを届けたい」と述べていた。このことから監督というポジションには、そのアニメに携わる人全ての人生がのしかかっていることがわかる。

 金銭面だけでなく仕事において見える課題は、ポジションによって見える景色が異なるだろう。ただその課題のほとんどは繋がっているのだと、この2つの作品を観て、読んで改めて気づけるのだ。

若手の成長、業界の未来を願う人々の物語

 主に新人動画マンの成長を描く『アニメタ!』。アニメ作りに携わる人々の熱狂を描く映画『ハケンアニメ!』。アニメの裏側に迫る方法が少々異なるこの2作だが、共通点もあった。それは「育成と信頼」だ。

 映画『ハケンアニメ!』では、瞳のストレスのもとだったプロデューサー行城が、彼女が会社を辞めることを知って、興味を示さないでも止めるでもなく、これからも一緒に仕事をするために円満に退社するよう進言している。他の監督の代打だと思っていた瞳にとっては青天の霹靂のような言葉だ。と同時に作品を広めるための仕事に連れ出していたのも、これからもさまざまな作品に携わる自分を信じていたからこその行動だったと、瞳は知ることとなる。

 『アニメタ!』でも、もはやマイナスからのスタートといっても過言ではないユキムラを、粘り強く導く人々の姿が描かれていた。この背景には、ユキムラの「空間を操る原画マンとしての才能」を信じる気持ちがある。

 若手の育成には時間も費用もかかる。しかし若手の成長が結果、業界の未来を支えることを知っている人たちだからこそ、育成にも手を抜かないのだろう。目の前の作品も、これから生まれる作品と生み出す人たちの可能性にも全力でぶつかる人たちの物語が熱くないわけがない。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる