歌人・岡本真帆が語る、ネットと短歌のつながり「解釈はその人のもので、自由に面白がってもらえたら」

歌人・岡本真帆インタビュー

短歌が伝わるスピードを大事に 

――岡本さんの短歌は口語体が多く、言葉選びもわかりやすいと感じます。何かこだわりがあるのでしょうか? 

岡本:普段使っている言葉で短歌を作りたいと思っています。伝わるスピードも意識していて、誤読されないように言葉を配置して、パッと見て意味が伝わるように作ることが多いですね。もちろん、繰り返し読んで意味がわかる短歌も好きなのですが。 

 あと、なるべく独りよがりにならないように心がけています。短歌にするのは、自分しか経験したことがない個人的なものが多いです。たとえば「にぎやかな四人が乗車して限りなく透明になる運転手」という歌は、「タクシーの運転手さんって、乗ってきたお客さんに合わせて気配を消すことがあるなあ……」と思ったことを詠んだもの。これは一人でただ思っていただけですが、他の人も似たようなことを別の場面で感じたことがあるんじゃないかと思います。短歌の中のシーンは体験していなくても、なんかこの感情は知ってる、と感じてもらえたらいいなと思っていますね。 


――短歌では〈私性〉と呼ばれる作者の固有性を重視することが多いですが、岡本さんは私性を固く握りしめているというよりは、その手を少し開いているような印象を受けました。 

岡本:自分の短歌の意図やこだわりをしっかり持っている人もいますが、私はどちらかというと寛容なのだと思います。だから大喜利も楽しめましたし。作歌の意図はあるけど、解釈はその人のもので、自由に面白がってもらえたらと思っています。 

 私性に基づいているのもありますが、短歌の形式をパズル的に面白がっているものもあります。私性が強いものと、音や言葉で実験的に遊びながら作ったものが両方混ざっているのも、そう思われる一因かもしれません。 

 それから『水上バス浅草行き』には、映画『リリイ・シュシュのすべて』に寄せた連作「新しく生まれ直せば」や、スピッツの「悪役」という曲から連想した連作「悪役」があります。「あの映画の主人公だったら」「この漫画のキャラだったら」と空想しながら作ることもあり、短歌の主体が必ずしも私ではないです。「そんなの短歌じゃない」と言う人もいるかもしれませんが、私含め今の若い歌人は自由に、面白がりながら作っている印象がありますね。 

なくても生きていけるものに救われる 

――歌集『水上バス浅草行き』は、同名の連作からタイトルを取っています。この題にした理由は? 

岡本:私は普段は編集やプロモーションといった、漫画家や小説家の作品づくりに関わる仕事をしているのですが、こうしたコンテンツって水や電気のようなライフラインに比べれば、なくても生きていけるものですよね。でも、そういう「遊び」のような存在こそが自分を生き生きさせてくれていると日々思っていて。 

 浅草行きの水上バスって、ただ急いで浅草へ行きたいなら選ばない乗り物なんですよ。だけどその存在があるから生まれるものがある。短歌もそうで、なくても生きていけるけど、あるから救われる瞬間が無数にあるんです。その実感を歌集に込めました。 

――歌集全体からは明るい雰囲気を感じます。 

岡本:でも、人から見た場合と自分が思っているのは違うかも。短歌にするとポップに見えるのかもしれないですね。 

 よく根明だねって言われるんですけど、ほんとかな、と思うんですよ。たとえば、「安全な場所」という連作は「ていねいなくらしにすがりつくように、私は鍋に昆布を入れる」「働いて眠って起きて働いて擦り減るここは安全な場所」など、自分の負の面を出している感覚があります。これは社会人のはじめの頃の歌なのですが、毎日つらくて、ちょっとでも生きている爪痕を残したいって気持ちで作っていました。 
 

――後半につれて明るいものが増えているからそう感じたのかもしれません。あるいは、単純に僕の印象に残ったのが明るい歌だったのかも。 

岡本:最近作った歌は明るいのが多いかもしれません。短歌を発表して反応を見る中で、自分の明るさが響きやすいと自覚したこともあって、意識的にご機嫌な自分や、楽しいと思っている瞬間を短歌にしていました。あと、ひょっとすると最近は比較的穏やかな日々を過ごせていて、自分の生活の中にある輝きに目が向きやすくなっているのかもしれません。 

――最後に、今後の展望を教えてください。 

岡本:会社員として働きながら短歌を作ってきて、歌集を出したら歌人と呼ばれるようになって、今はまだその変化に気持ちが追いついていない部分があります。今後短歌やエッセイの仕事をいただけるのであれば、精力的に取り組んでいきたいと思う一方で、私の短歌は生活の副産物として生まれるもの。これからも背伸びをしない等身大の自分のままで、日常生活を大切にしながら作歌活動を続けていきたいです。 

 

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