鈴木涼美が語る、女性ファッション誌「JJ」が与えてくれたもの 「20歳前後の女性にとって強烈な光となっていた」

鈴木涼美が語る、『JJ』の力

「自由な若い女性」が消費の主体に


ーー「JJ」はかつて“幸せな結婚”をゴールとしていたものの、近年は全面的にアップデートされていたというお話は意外でした。

鈴木:「JJ」が数十万部売れていた90年代は、まさに“オフィスの花”などのワードが紙面に踊っていた頃で、多くの方は今もそのイメージで捉えていると思います。自立した価値観を持つ現代の女性が「JJ」を手放したために売れなくなったと考えるとシンプルなのですが、実際はもう少し複雑です。というのも、近年の「JJ」は女性が編集長になった時期もあり、フェミニズム系の若い女性のインフルエンサーが表紙を飾るなど、時代に合わせて生真面目にアップデートされていたからです。紙面でも「人がどう思おうと構わない、自分で決める」みたいな価値観が打ち出されていました。それでも売れなくなったのは、雑誌を手に取る習慣がなくなったことはもちろんですが、「JJ」が本来持っていた個性が失われたことも影響しているように思います。

 お金持ちの男性と結婚するのがゴールとか、細くて顔が小さくてスタイルが良いことが正義みたいな価値観は、多様性を尊重しようと訴える現代の価値観からするとすごく嫌がられるものだと思います。しかし、人間の欲望の部分はそう簡単に変わるものではないですよね。私自身も多様性を認め合う社会が理想的だと思いますし、ルッキズムは良くないと思います。でも、本音ではスリムな体型でいたいし、彼氏はできればお金持ちが良いという欲望を持っている女性は多いでしょう。正しさを語ることは大事だけれど、それとは別に女のコの欲望はあって、「JJ」はその本音に寄り添っていた。いま、そうした本音を代弁してくれるメディアがどれくらいあるのかと考えると、すごく減っているように思います。

――迂闊に発信するとSNSなどで炎上のリスクもあるので、メディアで本音を表現するのは本当に難しい時代になったと思います。でも、かつての雑誌は欲望によって人々に活力を与えてきた面もあったわけですね。

鈴木:活力はめちゃくちゃありましたよね。私が中学生のときに「egg」や「東京ストリートニュース!」が創刊されて、同世代にとっては雑誌に載っているコの方がタレントよりも有名ということがざらにありました。一人のギャルがおすすめしたスプレーが大ヒットしたりとか、雑誌の情報に踊らされるというより、自分たちの方から踊りにいくような活力があった。当時はすでにバブルが崩壊して10年近く経っているし、大人の世界は景気が悪くなっていたからこそ、いまのうちに人生を楽しんでおこうという気分もあったし、雑誌はその先導役を担っていました。

 昔は結婚が早くて、少女から急に主婦になっていたのが、高度経済成長に伴って「自由な若い女性」という期間ができるようになり、消費の主体になっていった。いわゆるアンノン族(「an・an」や「non-no」を片手に旅行する若い女性たち。1970年代中期から80年代にかけての流行語)がその先駆けで、以来、雑誌は若い女性が自分のためにお金を使うこと、親の所有物でも夫の所有物でもなく、主体的に消費する存在となることを認めてきました。その意味では、女性の地位向上という観点から見ても、雑誌は重要な役割を果たしてきたと思います。

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