浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』完結へーー「終わりなき日常」はどこまで続く?
2022年3月30日に最終巻が発売された『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』。作者である浅野いにお氏の作品として、映画として実写化された『ソラニン』や『うみべの女の子』が挙げられる。ただ、これまでアニメ化された浅野氏の作品は存在していない。
浅野いにお作品初のアニメ化作品という呼び声もあいまって、今後さらに大きな注目を集めることが予想される本作。第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞にも選ばれた本作の魅力はどんなところにあるのだろうか。
東京の上空に無数の飛行物体と巨大な母艦、そして”侵略者”が出現し日本中がパニックとなった8月31日。「8.31」として語り継がれることとなった未曾有の大災害から3年が経った東京が物語の舞台だ。空に母艦が浮かんでいるものの今までの日常を取り戻しつつある世界で、女子高生「小山門出」や彼女の幼なじみ「中川凰蘭」たちの日常が描かれる。
2014年から2022年にかけて『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載された本作。「3.11(東日本大震災)」を彷彿とさせる「8.31」など、本作で描かれるものは実際の日本で起きていた事象と重なる部分が非常に多い。化学物質の汚染状況がニュースで流れ、学生団体によるデモ活動が起こる様子から、2010年代の日本に漂っていた空気感を味わえる作品だといえるだろう。
友人らとプリクラを撮り、クリスマスケーキを買ってみんなでプレゼント交換をしながら楽しそうに過ごす門出たちの日々。凰蘭の口にするネットスラングまじりの会話も含め、まるで現実に存在している(もしくは存在していた)かのような若者たちが過ごす日常の様子が描かれる点は、作品の魅力として欠かすことはできない。
そんな本作の1巻「第4話」で門出が手に持つ書籍『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)は実在する古市憲寿の著作だ。
非正規雇用の増加や格差社会などが騒がれていた2010年、若者の生活満足度や幸福度は過去40年間でほぼ最高の数値を示した。その理由として、『絶望の国の幸福な若者たち』では高度経済成長期をはじめ未来に希望を持つことができた時代と比較し、課題が山積みであった2010年ごろの日本に若者は素朴に「今日よりも明日がよくなる」とは信じることができなかった点を挙げている。
若者たちの目の前に広がるのは将来に希望が見いだせない「終わりなき日常」であり、ゆえに「今は幸せだ」ということができる。もしくは「今が幸せだ」ということしかできない。
また「今、ここ」の身近な幸せを大事にする若者は自分と同じ「小さな世界」に属する「仲間」を幸せを測る物差しとしており、「仲間」以外の世界に関心が薄くなるのだという。巨大な母艦が浮かび侵略者が出現する世界で、彼氏のいる友人に嫉妬したかと思えば、彼氏に振られるとやさしく気遣う凰蘭たち。物語の序盤では、彼女たちの世界が友人の存在によって構築されていることが伺える。
象徴的なのは1巻「第6話」で凰蘭が門出に対し、一緒に下校することができなかった怒りをぶつけながら背中にしがみつくシーンだ。ふたりの姿を見開きで大きく映した背景には巨大な母艦が空を覆うように描かれている。彼女たちの世界が社会情勢よりも友人関係が多くを占めることを裏付けるかのように、異質さとおぞましさを覚える景色にふたりは目もくれない。