【漫画】「恋人らしいこと」すると、しんどいーーアセクシャルの葛藤を描いた創作漫画が伝える恋愛の多様性
影響を受けた作家は魚喃キリコ
――今現在の製作状況を教えてください。
東洋トタンさん(以下、トタン):「漫画アシスタントをしながら漫画家を目指す」という、いわゆる“漫画家志望”の状態です。平日はプロの先生の漫画の背景を描かせてもらい、休日は自分の漫画を進める、といった感じで、漫画漬けの日々を送っています。ありがたいことに、最近少しずつですが、自分の漫画を商業誌に載せていただけるようになりました。
――絵を描くことになったキッカケは何ですか?
トタン:幼少期から落書き程度ですが、漫画をよく描いていました。その後、高校3年生の時に「漫画家になりたい」という夢の実現に向け、本格的に漫画の制作を始めました。今思えば、もっと早い時期から行動しておけば良かったです……。
――影響を受けた作家さんはいますか?
トタン:時期によってかなり変わりますが、今は魚喃キリコ先生に最も影響を受けています。全ての画面が洗練されており、要所要所の“脳内からありのまま引き出したモノローグ”が痛々しくて、本当に憧れています。
自身の失恋が創作のキッカケに
――『「恋人らしいこと」すると、しんどい』は、表現の難しいテーマを描いていますが、そもそもどのような経緯から制作に至ったのですか?
トタン:実は約2年前に制作したものなのですが、アセクシャル(以下、Aセク)という題材を選んだキッカケは、“自分が好きになった人がAセクだったから”です。当時の私はこのセクシャリティを全く理解しておらず、本作に登場する山下のように、好きだったその人を何度も傷つけてしまいました。それから、大失恋した後、何ヶ月か経ってある程度気持ちが落ち着いた時、「Aセクについて知らねばならない。知りたい」という気持ちが沸き起こり、制作に至りました。
――アセクシャルについてはどのように勉強したのですか?
トタン:関連する書籍を読んだり、当事者の方々の意見を調べたりなど、2ヶ月ほどAセクについて理解を深めました。Aセクについての発信を続けているグループYouTuber“モノクロセクマイchさん”には大変お世話になりました。
単純化せず、複雑な心境を表現
――唇を噛みしめたり、座布団を握りしめたり、キリの心苦しさを感じました。キリの心境を表現するために、どのような点を意識しましたか?
トタン:当事者の方々の感覚と漫画内での描写が、できる限りズレないように気をつけました。恋愛関係を築いてきた相手でも、「いざ性的な行為が始まるとすごく辛い。でも拒否するのも申し訳ない」といった複雑な心境を表現できるよう意識しました。恋人から抱きしめられて「嫌だ! やめて!」と拒否することは、とても勇気がいると思います。「大切な相手を傷つけたくない」という思いから、あのシーンでキリちゃんは唇を噛んで耐えています。
――キリは髪を切りましたが、この演出の意図をお聞かせください。
トタン:明確な意図はないのですが、制作を進めていく中で「キリちゃんは、自分の性自認と性表現を男女どちらにも当てはめない“ノンバイナリー”なんじゃないかな?」という想像が膨らみ、「ありのままの自分でいよう」という前向きな思いからバッサリ切ってもらいました。
――また、リコの言葉にキリが救われた印象を受けました。
トタン:「リコちゃんの言葉でようやく救われた」という解釈は私も同意見です。リコちゃんという存在がなかったら、キリちゃんは多分もっと長いこと塞ぎ込んだままだったと思います。Aセクの方の経験談を色々と調べると、「自分は冷たい人間なのでは」と感じてしまう人が少なくないことを知りました。「恋愛だけが全てじゃない」と、リコちゃんのような言葉をかけてくれる人がもっと増えればいいなと思っています。
――今後はどのように漫画制作を展開していきますか?
トタン:「ヒット作を作るぞ!」というよりは「こいつの漫画はずっと本棚に置いておきたいな」と思ってもらえるような作品を作りたいです。発表する媒体はTwitter、pixivが基本ですが、最近は少しずつ商業誌での発表もできるようになったので、そちらも機会あればぜひご覧いただきたいです。
■東洋トタン(@To_Yo_Tutan)
東京都立工芸高等学校全日制デザイン科卒業。主にTwitterやpixivにて自身の漫画作品を公開。「あーー別れてよかった!!!恋愛ショートアンソロジーコミック」(KADOKAWA)にて商業デビュー。