【漫画】現代社会に暮らす“妖怪”の悩みとはーー人情味あふれる『妖の運び屋』が面白い

現代社会は“妖怪”の肩身が狭い

――絵を描くようになったキッカケを教えてください。

兎屋まめさん(以下、兎屋):物心がついた時から絵を描くことが好きでした。漫画は高校生の時から描くようになり、ノートにサスペンスもどきのようなものを描いていました。

――本格的に漫画制作を始めた時期は?

兎屋:専門学校に入ってから制作を始めました。この時は漫画に対するモチベーションもそこまで高くなくて、漠然と「将来漫画家になるのだろうな……」くらいにしか考えていなかったです。漠然と「課題が出されたから制作する」という感じでした。

――『妖の運び屋』制作の経緯をお聞かせください。

兎屋:『妖の運び屋』は雑誌「Nemuki+」で連載中なのですが、企画を出す際に、自分が今までやったことがない題材をやってみたいと思い、「“妖怪もの”で行こう」と決めました。一般的な妖怪漫画は「理屈では説明出来ない不思議な事象」や「ホラー要素」が魅力だと思います。ただ、差別化を図るために、かなり無謀ではありますが「全てその逆を描いてみてはどうか」と考えました。

軌道修正しながら妖怪を描く

――挑戦的な設定のように感じますが、どのように世界観を構築したのですか?

兎屋:まずは「この人間だらけの現代社会の中で生きていかないといけない妖怪たちは、さぞ立場が弱くて肩身が狭いだろうな」と考えました。そこで浮かんだイメージが「逃す」でした。昔『夜逃げ屋本舗』という映画、テレビドラマシリーズがありましたが、「あれの妖怪版をやろう」というのが最初の着想です。ただ、連載に当たって、逃すだけではネタ切れになる可能性を担当編集さんに指摘してもらい“運び屋”という形に落ち着きました。

――『妖の運び屋』に登場する妖怪が不気味さもありつつも、とてもチャーミングに描かれていますね。

兎屋:実は、最初は人間との価値観のズレが意識の中にあり、連載の2話辺りまではそんなちぐはぐによる気持ち悪さを意識していました。ただ、読者さんが求めているものは「色んな意味での妖怪の可愛さ」だということに気付き、連載中に軌道修正して現在のような描き方になりました。

――また、各妖怪も人間と同じような悩みを抱えていますが、そもそも兎屋さんは妖怪をどのように捉えて、制作をしていますか?

兎屋:『妖の運び屋』における妖怪は1話目で説明しましたが、“人間の想いから産まれた生き物”と位置づけています。人間は恐怖や不条理を説明する事象として妖怪を生み出してスッキリします。しかし、人間の悪い部分を持った日陰の存在として生き続けなければいけない妖怪はたまったものではありません。“人間の都合によって生み出された可哀想な存在”という視点も意識してもらえれば、共感してもらいやすいのではないでしょうか。

――『人間が営む運送屋さんが豆腐小僧を保護する話』は悲しくも見えるオチになっていますが、兎屋まめさんが描きたかったことは何ですか?

兎屋:「幸せのかたちは真実とは別次元の場所にある」ということでしょうか。妖怪の存在が指し示すように、一見バッドエンドのような何処か物悲しい感じは『妖の運び屋』を通して描きたい要素でもあります。

――最後に今後の展望をお聞かせください。

兎屋:あまり野心というものはありませんがが、「できるだけ長く漫画家を続けたい」とは考えています。「綺麗なもの」「可愛いもの」「不思議なもの」「怖いもの」が大好物ですので、それらを作品に盛り込んできましたが、とにかく売れないとどうしようもないという事にようやく最近気づきまして…。ですので、漫画家を続けるために売れたいです。また、『妖の運び屋』の単行本はもちろんですが、ツイッター上で公開していた漫画『わたしのお母さん』が商業連載になります。今後は兎屋まめのツイッターをフォローしてチェックしていただけると励みになります!

■兎屋まめさん
https://twitter.com/usayamame

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