YOASOBI×直木賞作家4名『はじめての』は、小説と文芸のあり方をアップデートするーー柴那典が野心的コラボ小説を解説

YOASOBI×直木賞作家の衝撃

 とてもみずみずしい、出会いの一冊。それが『はじめての』(水鈴社)を読み終えて最初に抱いた感触だった。

『はじめての』(水鈴社)

 『はじめての』は、YOASOBIと、島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都という4人の直木賞作家によるコラボ小説。「はじめて〇〇したときに読む物語」をテーマに4名の作家が小説を書き下ろし、そこに収められた4つの作品を原作にYOASOBIが制作した楽曲を1年かけて発表していくプロジェクトだ。ただ、座組や仕掛けの面白さもさることながら、まずは作品から伝わるワクワク感が何より印象に残った。

 きっとこの作品が「はじめての一冊」になる若い世代の読者も多いだろう。アンドロイドや幽霊や異世界やタイムトラベルをモチーフにした4つの物語は、10代でもすっと入り込めるような間口の広さと、夢中になってページをめくってしまう読みやすさを持っている。

 第一に、とても良質なエンタメ作品。ただ、それだけじゃない。YOASOBIにとっても、作家や出版社にとっても「小説」や「文芸」というもののあり方をアップデートしていこうとするような野心的な試みを感じる。

 そういうあたりのことを、いくつかのポイントから解説していこうと思う。

 一つは、このプロジェクトはYOASOBIにとっても新たな挑戦だということ。

 もともとYOASOBIはソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する小説・イラスト投稿サイト「monogatary.com」を母体に結成されたユニットだ。デビュー曲「夜に駆ける」は、同サイトに投稿されコンテストで大賞になった星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』を原作にした一曲。その後も「あの夢をなぞって」や「たぶん」や「大正浪漫」など同サイトでの原作募集コンテストの大賞作品を楽曲化している。つまり、「小説を音楽にする」というコンセプトを掲げてきたYOASOBIの“小説”とは、その来歴においては、アマチュアのウェブ投稿小説を指していたわけである。その背景には00年代以降のボーカロイドカルチャーにおける音楽と小説とのメディアミックスもあったはずだ。

 また、YOASOBIは漫画家・板垣巴留が書き下ろした小説を原作にしたアニメ『BEASTARS』主題歌の「怪物」と「優しい彗星」、放送作家・鈴木おさむが原作を書き下ろした「ハルカ」や「もしも命が描けたら」、劇団ノーミーツの脚本家・小御門優一郎が原作を書き下ろした「RPG」など、さまざまな領域で活躍するクリエイターが原作小説を担当する楽曲も発表してきた。ラジオのリスナーに募集した手紙を原作にする「レターソングプロジェクト」から生まれた「ラブレター」のような楽曲もあった。

 それが『THE BOOK』『THE BOOK2』という2枚のEPに収録された(インストゥルメンタル曲をのぞく)計16曲。こうして“国民的ユニット”となったYOASOBIにとっては、満を持して「直木賞作家」という大衆小説のメインストリームを担ってきた作家とのコラボレーションとなるわけである。

『はじめての』直木賞作家4名 × YOASOBI コラボプロジェクトトレーラー

 『はじめての』には、以下の4篇が収録されている。

島本理生 『私だけの所有者』―― はじめて人を好きになったときに読む物語
辻村深月 『ユーレイ』―― はじめて家出したときに読む物語
宮部みゆき 『色違いのトランプ』―― はじめて容疑者になったときに読む物語
森絵都 『ヒカリノタネ』―― はじめて告白したときに読む物語

 書籍の発売日と同じ2月16日には、まず第一弾として『私だけの所有者』を原作にした「ミスター」がリリースされた。原作に登場するアンドロイドの“僕”から、その所有者”Mr.ナルセ”への募る思いを綴った1曲。きらびやかなシティ・ポップのサウンドに乗せて《思い出すのはあなたとの暮らし》《あれは二人最後の思い出》――と追憶を綴る言葉を歌い上げる。

YOASOBI「ミスター」teaser
YOASOBI『ミスター』

 残り3つの物語がどんな音楽になるのか。第一線の作家による作品をYOASOBIがどう料理するか、楽しみだ。

 二つ目の試みは、キャリアも長く多くの愛読者を持つそれぞれの作家が、YOASOBIとのコラボをきっかけに「はじめて」出会うだろう読者に向けての表現に取り組んでいるということ。アンドロイドによる一人称視点というSF的な仕掛けからピュアな愛情を描き出した島本理生の『私だけの所有者』。思春期の不安や繊細な感情を夏の夜のファンタジックな情景を通して綴った辻村深月の『ユーレイ』。鏡像のような二つの世界を舞台に始まる冒険譚の宮部みゆき『色違いのトランプ』。告白とタイムトラベルをモチーフにユーモラスな筆致で青春のきらめきを爽快感たっぷりに描く森絵都の『ヒカリノタネ』。どの作品も、ジュブナイル的な魅力を持つ物語になっている。このあたりはYOASOBIとの親和性も意識されているはずだ。

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