ジャズ漫画『スインギンドラゴンタイガーブギ』は心を揺さぶる? 音楽の本質を訴えるセリフから考察

『スインギンドラゴンタイガーブギ』の魅力

 丸山の父は米軍キャンプで演奏をする息子を「アメリカ野郎の太鼓持ち」とののしる。一方、米兵たちの苛立ちが描写される部分も印象的だ。日本人は敗れはしたが、平和を手に入れている。いつ朝鮮戦争にかり出されるかわからない不安を抱えた彼らからすれば、貧しかろうが自由に音楽を演奏して暮らせる身分がどんなに恵まれているか。そんなことに気づかされる。

 バンドを率いる立場の丸山は、仏頂面の小田島に口うるさいほどに「スマイル」を求める。それはプロの矜持でもあるとともに、丸山が人一倍「みんなに笑顔であってほしい」と望んでいるためでもある。調子のいい男に見える丸山だが、成功にこだわる気持ちの奥底には戦下で命を落とした姉への想いがあるのだ。

 小田島はバンドの中でも抜きん出た実力を持ちながら、過去6年分の記憶を失い、闇の中にいるかのような日々を過ごしている。とらはそんな小田島に、いっしょに楽しく演奏し、笑っていてほしいと思うようになりーーまだローティーンのとらの淡い恋心とミュージシャンシップの入り混じった感情がいじらしく、甘酸っぱく映る。

 バンドは方向性の違いから分裂し、メンバーはそれぞれに腕を磨き、また再会を遂げ、そして各々に道をひらいていく。壁にぶつかったとき、必要とされていないと感じたとき、ミュージシャンは「どうして音楽をやる意味があるんだろう?」と思い悩むものだが。

 米軍クラブのマスターは言う。

「音楽がないと人生がままならないじゃないですか‼︎」(3巻P103)

  小田島に想いを寄せるピアニストは言う。

「この曲が繰り返される度に……私はあの人に恋こがれてそして失恋をするのです」「有史以来人間はそうやって自分自身を舞台役者のように演じてきて……沸き起こる感情をリセットする術を求めて芸術を創り鑑賞し続けてきたんじゃなかろうかなんて……」(6巻P54〜55)

 折にふれて語られる、音楽の本質を伝える言葉にも心揺さぶられた。作り手は音楽に感情を宿し、聴き手はその感情を受け取り、また自分の中でふくらませる。時代を作った音楽と、それにまつわる感情を描き出した本作から、読み手は音楽を愛する心のありようをしっかりと受け取るはずであろう。

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