キン肉マングレートが表現した“受け継がれるマスクマン”の魅力とは? 

『キン肉マン』“受け継がれるマスクマン”の魅力とは?

 プロレス的視点から『キン肉マン』(ゆでたまご/集英社)の名勝負を考察する本シリーズ。第9回はある“受け継がれるマスクマン”に迫ってみたい。

※本稿は『キン肉マン』シリーズのネタバレを含みます。

第1回:2000万パワーズ、“名タッグ”として語り継がれる理由
第2回:名勝負ブラックホールvsジャック・チー戦に見る、“別人格ギミック”の面白さ
第3回:大魔王サタンは「稼げるレスラー」である
第4回:ジャンクマンvsペインマン戦が証明した、不器用で愚直な戦いの熱さ
第5回:バッファローマンの“裏切り”はなぜ人々を魅了する?
第7回:キン肉スグルの試合スタイルは玄人好み?
第8回:ロビンダイナスティの死闘の歴史「名門一家」が歩んできた険しい道のりを考察

呪われたマスク

 「プロレスラー」と聞いて、マスクマンを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。自らの正体を覆面に隠し、本来の自分とは別の人間として戦う。色鮮やかな覆面とコスチュームというスタイルから繰り出される空中殺法は華やかさを増し、覆面によって見えない表情は、レスラーによっては不気味さを強調するためのツールにもなる。

 プロレスには数多くの素晴らしい覆面レスラーが存在するが、“”覆面”であるがゆえに、いわゆる「中の人」が代わりながら、そのマスクマンが存在し続いていくという独特な文化もある。その最たる例がタイガーマスクであろう。1981年4月に始まった黄金の虎伝説はこれまで4人のレスラーによって受け継がれ、いまもなお現役レスラーとしてリングに立ち続けている。石ノ森章太郎が原作の「仮面ライダー」で、「継ぐのは魂」という名言を残しているが、タイガーマスクも4人それぞれファイトスタイル、個性は異なるものの、その魂を覆面に託して継承していると言えるだろう。

 そしてプロレス漫画の金字塔『キン肉マン』の世界にも、代々受け継がれているマスクがある。そう、キン肉マングレートのマスクである。これまで計4人のグレートが登場したが、やはり中の超人が違えばファイトスタイルも異なる。ただこの4人に唯一共通する点、

 それは「キン肉一族(スグル&万太郎)を助けるためにその仮面を被った」ということである。

 一方で、それは呪われたマスクとも言える。被った4名のうち2名が死亡しているからだ(さらにいうと、もう1人もマスクを剥がされた試合で死にかけている)。キン肉一族のため、超人界の未来のために命を賭して戦い殉じる男がキン肉マングレートだ。だからこそ歴代グレートはそれぞれ試合数が少ないものの、それぞれにインパクトを残している。

 初代のグレートはスグルの師匠であり、48の殺人技を授けてくれたプリンス・カメハメである。悪魔超人の策略により失われた正義超人の友情。宇宙超人タッグトーナメントに向かう中、声をかける全ての超人から断られ孤立したスグルの前に現れたのが、カメハメその人であった。

 人前に老いさらばえた姿を見せたくない、また自身の存在を明らかにすることで他の超人が警戒することを危惧したカメハメが考案したのが、自らもキン肉マンのマスクを被り、タッグパートナーを務めるということだった。初代キン肉マングレート誕生の瞬間である。色の違うキン肉マスクに上半身のタンクトップにはブラックタイガーのオマージュを、パンタロンでマーシャルアーツを彷彿とさせる打撃中心のファイトスタイルには、晩年の初代タイガーのオマージュを感じさせずにはいられない。そのコスチュームとファイトスタイルの基本的な部分は歴代のグレートに継承されていくことになる。

 初代キン肉マングレートはグレートの名の示す通り、スグルの師匠としてスグルをリードしながら対戦相手の4次元殺法コンビを撃破。そのときに見せたフィニッシュホールドであるマッスルドッキングは、現在に至るまでキン肉マン世界屈指のツープラトン技として強烈なインパクトを残している。

 その後、初代グレートはテリーマンとジェロニモを助けるためにその命を落とすこととなる。正義超人の未来をスグルの真のパートナーとして認めるテリーマンに託して。

 そして2代目グレートとなったテリーマンは、パートナーのスグルにすらその素性(とカメハメの死)を隠し、あくまでも”正体がカメハメ”であるキン肉マングレートとしてスグルの傍に立つ。

 しかし即席でカメハメの特訓を受けたとはいえ、元来あまりにもファイトスタイルの違うためコピーはうまくいかず、スグルにもその素性を怪しまれることになる。だがカメハメの霊からの助言を受け、初代の幻影に囚われない2代目グレートとして戦うことを決意した。そうなれば元々は息の合った名パートナーである二人に怖いものはない。はぐれ悪魔超人コンビを下し、決勝へ進出、完璧超人との決戦に挑むこととなった。しかしその3本勝負の1本目で、ネプチューンマンの予告通りにマスクを剥がれ正体を暴かれる。2本目以降はテリーマンとして戦いを続けたため、2代目グレートの歴史もまた、ここで幕を閉じることとなった。

 そして時を経て『キン肉マンII世』で、キン肉マングレートは復活を遂げる。先の戦いでネプチューンマンに剥がされたグレートのマスクは、その試合中に風で飛ばされて、客席にいた一人の超人の手に渡っていた。

 そのマスクを手にしたカオスは何の因果か、スグルの息子である万太郎にその潜在能力を見抜かれ、究極の超人タッグ戦を戦うパートナーとして指名される。そしてカオスはキン肉マングレートIIIとして万太郎と戦うことを決意した。グレートIIIはこれまでの完成された超人であった歴代グレートとは異なり、(当初は)格闘技経験なしの素人として、万太郎に導かれる“”成長していくグレート”だった。

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