まるで朝ドラ! 老舗料亭を舞台に繰り広げられる年の差夫婦の物語『ながたんと青と』のエネルギー

まるで朝ドラ『ながたんと青と』がアツい

「この厨房に立つことは うちの夢でもあった」

 戦争で亡くなった夫からもらったながたん(包丁)を、はじめて手に取る。そこには、ひとりの女性の覚悟があった——。

 1951年春、戦争が終わって6年。200年あまり続く京都の料亭『桑乃木』が本作の舞台だ。ヒロインのいち日は、2カ月しか夫婦として暮らせなかった夫を戦争で亡くし、ホテルの厨房でアントルメティエ(※1)として働いていた。それから突然父が亡くなり、なんとか母と妹が料亭を切り盛りしていたが、大阪でホテルを経営する山口家の三男を婿養子に迎え、傾きつつある料亭の立て直しを図ることに。しかし、結婚をして跡を継ぐはずだった妹が駆け落ちしてしまう。行方不明の妹の代わりに、その矛先はいち日へと向けられる……。
※1 アントルメティエ:厨房でスープ、卵、野菜など前菜を担当するスタッフのこと(https://www.shibatashoten.co.jp/sp/words/detail.php?wid=301)

 最初にこの漫画を読んだとき、朝ドラ(NHK連続テレビ小説)のようだと思った。戦後という時代背景、京都を舞台に方言を話し、女性の板前という進出が難しい世界で頑張るヒロイン。いち日の身には、政略結婚や料亭の跡継ぎ、経営の立て直しなどが一度に押し寄せる。それでもなぜここまで淡々と、ときには楽しそうにしていられるのだろうか。どんなに泥臭くても、自分に自信がなくて卑屈になってしまうことがあっても、自分にはなにができるのだろうかと考え、向き合うヒロインの生き抜こうとする強さ、美しさ。そこからエネルギーをもらえる、そんな作品だ。

歳の差15歳、ゆっくりとだがお互いの歩み寄りが丁寧に描かれている

 34歳のいち日と、19歳で大学に通う周(あまね)。はじめて顔を合わせたときの周は、思ったことをはっきり言う、一言多い人という印象。いち日は縁談を周の方から断ってもらうために、「うちには好きな人がおります」と切り出した。しかし、周は「ぼくにもいます」と答える。こんな人と結婚してともに生活し、料亭を立て直していけるのだろうか。だけど、山口家の援助がなければ料亭はつぶれてしまう。料亭を維持するために、お互い想い人がいるという本音を知りながらも、15歳年下の周を婿に迎えることにした。

 夫婦となった日、周はいち日の手料理に一瞬で魅了されてしまった。そして、「いち日が料亭で料理をするなら、僕がこの店を立て直します」と言い出す。呆気にとられるいち日にとって、周はまだ学生で山口家の三男で、桑乃木を乗っ取ろうとしているのではないかという疑いがあり、信用しきれない……。2人の考えや気持ちは大きくズレているようにも感じる。いち日は先代からの伝統を守りたい、お客さんのことは一人ずつ頭で覚えるべきだという。しかし、周は顧客名簿を作り、客それぞれの好みは料理人任せではなく、経営者側も把握すべきだという考え方だ。これから日本は多くの外国人が訪れる、この町はそうなると、京料理も世界に広がっていくとも。夫婦以前に料亭の立て直しを図るパートナーとしてもこれで大丈夫なのかと心配になる。

 しかし、ひとつひとつの問題に対して向き合い、言葉にし、お互いにないものを補い合う、ゆっくりとだが歩み寄る様子が丁寧に描かれている。もどかしさもありつつ、ハラハラドキドキとした大きな展開がなくとも、続きが気になって仕方がない作品だ。

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