『呪術廻戦』血縁のしがらみを呪いとして描く“現代性” 少年漫画のイメージを覆す凄惨な暴力描写がすごい

『呪術廻戦』凄惨な暴力描写と“現代性”

 人間と呪骸でありながら、親子のように心が通じ合っていた夜蛾学長とパンダに対し、血を分けた実の肉親でありながらいがみ合い、最後は凄惨な殺し合いとなってしまった禪院家の末路を描いた物語が対比するように描かれたのは、意図的な構成だろう。

 「死滅回游」参加に備えて禅院家にある呪具の回収に向かった真希は、実の父・扇に「謀反者として」妹の真衣と共に殺されそうになる。だが、双子の真衣が命を落としたことで、真希の呪力はゼロとなり「フィジカルギフテット」に覚醒。伏黒恵の父・禪院甚爾と同じ超身体能力を身に着けた真衣は、死の間際に真衣が錬成した呪具の刀で扇を斬り殺した後、禅院家の人間を皆殺しにする。

 ここで注目すべきは真希が戦っているのが同じ禪院家の人間だということだ。禪院直哉を筆頭とする禪院家の人間たちは、名家の伝統に従うあまり、男尊女卑的な古い価値観に縛られている。禪院家は日本的な家父長制度の悪い部分を煮詰めたような最悪の集団で、だからこそ真希と真衣は女として苦しんでいた。この「血縁のしがらみ」もまた“呪い”の一種だと言えるだろう。だからこそ覚醒した真希が皆殺しにする場面には「家からの開放」というカタルシスがあるのだが、一方で「そこまでやらなくても」と殺害描写に引いてしまう自分もいる。なお、真希と扇の対決場面は、『幽☆遊☆白書』(集英社、以下『幽白』)第18巻で描かれた飛影VS時雨の剣闘シーンのオマージュとなっている。

 もともと『呪術廻戦』は、『幽白』や『HUNTER×HUNTER』(集英社)といった冨樫義博の漫画に強い影響を受けていたのだが、禪院家の戦いで見せた荒々しい作画と殺伐としていながらもどこか爽快感のある物語は、『幽白』終盤の異様なテンションに肉薄していた。この17巻で芥見下々の作家性は極限に達したと言えるだろう。

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