最上もが『HEARTSTOPPER』で感じた“愛の力”とは? 「信用できる人が1人でもいれば十分人生は楽しい」
大事なのは、いま一緒にいたいのかどうか
――以前、最上さんがTwitterに「男性も女性も好きだからって誰でも好きなわけじゃないよ」とおっしゃっていましたね。
最上:それもくくられるのがイヤだなって思ってのことでした。「バイセクシャルなんだったら全人類いけるってすごいラッキーじゃん」みたいな感じで言われて。「いや、その中でも好きになる人なんてほとんどいないけどね」と思うんです。
――そうですよね。その人も異性なら誰でもいいってわけじゃないはずなのに……。最上さんが人として惹かれるタイプってどういう方なのか興味があります。
最上:私の好きなタイプは……闇がある人ですね。
――えー!?
最上:はははは! というか、何か相談したときに「気にすんなー」で終わっちゃう人だと、それ以上関係を進めようという気にはなれなくて。どこかネガティブな部分にも理解を示して、その上でポジティブな話ができる人が好きですね。私自身、うつ病やHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン。生まれつき非常に感受性が強く、敏感な気質を持っている人)を持っているので、落ち込んだときに話ができる人がいいんです。要はちゃんとコミュニケーションが取れる人ですね(笑)。
――そうですね。実際に痛みを知っていたり、その想像ができたりする人がいいですね。「気にし過ぎだよ」とか言われてしまうと、「ああ……」って残念な気持ちになるのはわかります。
最上:そうそう。「いやいや気になるから話してるのに」って。そういうふうに生きてこられて羨ましいな、と思う部分もきっとあるんです。友だちでそういうタイプの人は、いてくれたら楽しいですし、好きなんですけど、恋人ではないかなって。
――そういう人間性は性別で区切れるものではないですよね。そうなると、今度はその人のことを恋愛として「好き」なのか、友だちとして「好き」なのか迷いませんか?
最上:私もいまだによくわかってないって感じなんですけど、そこを無理に区別しなくてもいいんじゃないかなって思うんです。どっちでもいいじゃんって。大事なのは、いま一緒にいたいのかどうかじゃないのかなって。この漫画のチャーリーとニックもそうでしたけど、一緒に過ごしているうちに相手のことも、自分自身のこともわかってくると思うので。
――「一緒にいたいかどうかが大事」は、すごく明快な答えですね。
最上:ふふふ。あとは、やっぱりキスもけっこう重要だなと思います。どんなに仲のいい友だちでも「キスしたい」って気持ちはなかなかないじゃないですか。「いや、ちょっとな」ってなりますよね、多分。でも、「別にいいかもしれない」って思うんなら、きっと新しい「好き」に気づく段階なのもしれないですし。あ、お酒によって誰彼かまわずキスする人は別ですけど(笑)。だからチャーリーとニックのシーンでも「ここだよね、決め手は!」と思ったりしました。
――「好き」の気持ちを区別したり、自分自身をジャンルに分けたりして考えようとするから、窮屈になるというところはありますね。そのどれでもいいし、どれでもないかもしれない。でも、大事なのはその人と一緒にいたいかどうか。この漫画を通して、伝わってほしい気持ちだなっていう気がしましたね。
最上:そうですね。この漫画でもちょっとずつニックが自分のことを理解して、親に、そしてちょっと近しい友だちにカミングアウトしていって、そして「みんなが知ったって僕は気にしないよ」っていうところまでいくのは、すごい変化だなって思いました。やっぱりそれをもたらすのはチャーリーの存在であって。こんな言葉を言うのは少し照れるんですけど、愛の力っていいなって思いました(笑)。
――愛の力、いいですね!
最上:タラとダーシーのカップルも「2人がよければそれでよくない?」っていう雰囲気がすごくいいなって思うんですよね。学生時代って特に閉鎖された空間で、なぜかみんなと仲良くならないといけないと思うじゃないですか。でも、みんなと関わろうとしなくても、顔色を伺うことをしなくてもいいんですよ。卒業して10年も経てば、そんな人間関係消えますから!
――友だち100人作らないといけないと思っていましたよね(笑)。
最上:そうなんですよ! それを学生時代は考えられなかったんで、なんであんなにあの子の機嫌を取ろうと頑張ってたんだろうって思いますよね。「誰か大人が教えてくれよ」って思ったので声を大にして言いたいです(笑)。「自分の幸せは何か」と考えたときに、「この人がいればそれでいい」と思えることは、すごくいいことだなって。チャーリーはニックと両思いになるだけではなく、守ってくれる友だちも、信頼できる友だちもちゃんといて、もうそこだけの世界があれば、辛いこともなんでも乗り越えられるよ!ってなっているのがすごくいいなって。だから羨ましいです。これを読んでからもう1回、学生をやりたいなって思いますね。
――性的な悩みだけではなく、人間関係に悩みを抱える人にも届くものが多いと思いますね。
最上:本当に。自分が信用できる人が1人でもいれば十分人生は楽しいですから。チャーリーの環境は私にとってかなり理想的だなって思いました。どんどんいい方向に行っているので、さらに幸せになってほしいなと願いながら、続きを楽しみにしています。
■書誌情報
『HEARTSTOPPER ハートストッパー』1〜3巻発売中
著者:アリス・オズマン
翻訳:牧野琴子
出版社:トゥーヴァージンズ
マンガ試し読みページ