海猫沢めろんが語る、独自の子育て論 「もっと逸脱してロックに生きてほしい」

海猫沢めろんが語る、男親の子育て論

 「イクメン」という言葉ができて久しい。しかし意外と男親が書いた子育てについての本は少ない。とくに普通の人が参考になる、苦しみも笑いも交えた実体験に基づく、意識の高すぎないものとなると稀有だ。そんな抱腹絶倒の子育てエッセイ『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』を刊行した小説家の海猫沢めろん氏(現在、小3男児の親)に子育ての考え方についてモヤモヤしていることを相談してみた。(飯田一史)

本って「効果」を期待して読む(読ませる)ものなの?

海猫沢めろん『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』(講談社)

――私事なんですが、『いま、子どもの本が売れる理由』という本を書くにあたって色々調べまして。ここ20年の児童書市場の堅調さは教育政策によって子どもが本に触れる機会を増やしたことが大きいとわかりました。子育て雑誌でも「東大生が小学生のとき読んでいた本」的な特集がよく組まれている。だけど「本って頭よくするために読む(読ませる)んだっけ?」という違和感があって。この支配的な価値観にカウンターを放てるのは作家くらいだと思うんですね。

海猫沢:文系教育不要論と逆ですよね。「文学部で教えることなんて使えないからいらない」って経済界の人とかは言っているのに、同じ口で「子どもを賢くするには本を読ませるべきだ」と(笑)。理系教育が大事だと言っているわりに「子どもに数学書を読ませろ」という話にはならない。矛盾してますよね。

――昔は「これくらい読んどけ」みたいな教養主義的や「良書を読ませろ」的な抑圧があったけど、今は学力か「役に立つか」につながるか、親の助けになるかという基準が子ども・若者の読書に強く及んでいて、本の価値が矮小化されている気がして。作家として、小説や物語までそんな物差しで判断されたら「おいおい」って思いませんか?

海猫沢 子育てしている文学の書き手と話すと、そういう話になりますね。子どもは言うことをきかない。そこで「言うことを聞かずに悪いことをすると大変なことになる」みたいな内容の絵本や童話を話すと、恐怖を感じてちょっと言うこと聞くようになったりする。でも作家としての自分は「何かに使える」とか「役に立つか」みたいな価値観で作品を書いていないのに、子育てが大変だからってそんな風に物語を使うって倫理的にどうなんだ? と。『おやすみ、ロジャー』にしたってそう。子ども向けだと当たり前のように何かの「効果」が期待されてるよね。でも「寝るための文学」なんて書いてるやつがいたらやばいでしょ? 俺はそんなの書きたくないよ!(笑)

とりあえずやってみることで生まれる原始的な喜びを大事にする

――読書も遊びも子どもは「おもしろいかどうか」で判断して、親は与えるにあたって「賢くなるか」「役に立つか」「良い子に育ちそうか」で判断する。逆に言うと大人は「将来のために、今これをする(させる)」という価値観に縛られていて、「今楽しい」ということの価値を軽んじてないか? と。

海猫沢:最近、子どもといっしょに読んでおもしろかった『13歳からのアート思考』(参考:『13歳からのアート思考』著者が語る、ゆたかなものの見方)のなかに、子どもが絵を描いていると必ず大人は「何を描いているの?」って訊く、という話があるんです。小さい子は、クレヨンを紙にこすりつけたら「線が出てきた! なんだこれ!」という驚きから「これ見て!」と言っているのに大人は「これなあに?」と聞いて「何か」を描くことばかり求めてしまう。でも「手を動かしたらなんか出てきた!」ということ自体に原始的な気持ちよさがあって、その驚きから始めることのほうが重要なのに。

 『13歳からのアート思考』を読む前は、うちの子も美術が嫌いだったんです。「写実的にうまく描かないといけない」という教育を学校でされてきたから。でも「アートってそういうものじゃない」とわかって、ラクになってましたね。

――内閣府が「日本の若者は諸外国と比べてうまくいくかわからないことに対し意欲的に取り組むという意識が低い」と発表していますが、これは保護者・大人の子どもに対するスタンスが「正解」「安パイ」に囚われてるからだと思うんですよ。だから美術もそうなる。だから習い事と言ったら英語や水泳に集中する。なぜなら高収入の人が子ども時代にやっていた習い事だとわかっているから。『パパいや、めろん』だといろいろな習い事の体験教室にお子さんを通わせたときのことが書かれていますが、あれはどういう意図なんですか?

海猫沢:とりあえずやってみることが重要なんだけど、ともすると「失敗するのがイヤだからやらない」みたいになりがちだから、子どもがゼロをイチにする経験を増やしたほうがいいと思ったんです。「新しい体験をする」こと自体を目的にやっていました。

 ただ「いろいろやった結果、ひとつのことに集中できなくなって全部ものにならなかった!」という人も俺はたくさん見ているんですよ。だから選択肢を広げすぎないほうがいいとも同時に思っていて。小さい子どもってお菓子でもおもちゃでもパッと見てすぐ「これ!」って選ぶけど、その迷いのないほうが満足度が高い。親としてはつい「あっちもあるよ」とか言いそうになる。でもそれはムダだなと思ってなるべく控えていました。うちの子どもも小学生になったら選択肢を意識して悩むようになってきちゃって。それを見ていても、選択肢を増やさないほうが幸せなことってあると思う。

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