ミカサのそばにいる男は誰? 『進撃の巨人』ラスト16ページに残された“5つの謎”を考察

『進撃の巨人』5つの謎

※本稿には、『進撃の巨人』(諫山創)の内容について触れている箇所がございます。原作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 諫山創の大ヒット作『進撃の巨人』が、6月9日に発売された第34巻で完結した。主人公のエレン、そして、ヒロイン・ミカサのそれぞれの“決断”を描いた見事なクライマックスだったと思うが、いくつかの謎は謎のままとして残されており、そのうちの最大の謎ともいうべき、ミカサが物語の終盤で幻視する夢についての考察は、以前、こちらの記事(『進撃の巨人』最終巻で描かれた「最大の謎」 ミカサの夢が意味するものとは?)で書いたとおりだ。

 本稿では、それ以外の――最終巻のラスト16ページで描かれているいくつかの小さな“謎”について、自分なりに解釈したことを書いてみたいと思う。当然、ネタバレ的な内容も含まれるので、原作を未読の方はご注意されたい。

 なお、「最終巻のラスト16ページ」というのは、いわば物語のエピローグ部分に相当するものだが、『進撃の巨人』の単行本には(タチキリでコマを割ったページが多いため)ノンブルがほとんど振られておらず、正式なページ数を書いても参照しづらいと思うので、以下のテキストでは、たとえば「ラスト16ページの1ページ目」を「P.1」という形で説明することにする。

謎その1:ヒストリアの子供の父親は誰か?

 エピローグの冒頭部分――すなわち、P.1の1コマ目で描かれているのは、エルディア国の女王となったヒストリア・レイスの子供(性別不明)の顔のアップである。そこでまず問題にしたいのは、この子の父親はいったい誰なのか、ということだ。

 むろん、作中で描かれている情報をそのまま鵜呑みにするならば、その答えは、「ヒストリア女王と同じ地で生まれ育った青年(第27巻より)」ということになるだろう。だが、『進撃の巨人』本編には、そうとばかりは言い切れないような描写が各所に散りばめられているのも事実だ。

 たとえば第27巻、水面下で憲兵団はヒストリアに「獣の巨人」の力を継承させようとしているのだが、「誰か」が彼女に、「妊娠しちまえば 出産するまでは 巨人にされずに済む」と「助言」したという描写がある(この「誰か」の正体は明かされていないが、おそらくはイェレナ、そうでなければエレンだろう)。

 また、第32巻のエレンの回想シーンでは、「私が…子供を作るのはどう?」とヒストリアがエレンに向かって問いかけている。こうしたいくつかの場面から自然と浮かび上がってくるのは、(前述の「青年」の登場もかなり唐突であることだし)もしかしたら、ヒストリアの子供の本当の父親はエレンなのではないか、という疑問だ。

 実際、ヒストリアにとってエレンというのは、かつて命がけで(実の父親を裏切ってまで)守った男だ(第66話では「私は人類の敵だけど…エレンの味方」とまでいっている)。また一方のエレンも、以前から彼女のことをたびたび気にかけている。つまり、(ミカサには悪いが)エレンとヒストリアはいつ結ばれてもおかしくはない関係なのである。

 ……のだが、まあ、これは妄想の域を出ない考えかもしれない。なぜならば、ある段階から仲間たちのために「世界を滅ぼす」という覚悟を決めていたエレンが、のちのち新たな戦争の“火種”となるおそれのある自分の子を(しかも女王の子として)残すとは考えにくいからだ。

 よって、ヒストリアの子供は、作中で描かれているとおり、同郷の「青年」の子ということで間違いないと思われるのだが、ここでひとつだけ書いておきたいことがある。『進撃の巨人』のページをめくってみれば一目瞭然だが、諫山創が描くキャラクターは、それぞれ眉毛の形に特徴がある。その観点からすれば、P.1の1コマ目で描かれているヒストリアの子供の眉毛は、エレンのそれとほぼ同じ形状をしているのだ。このことが何を意味しているのかは、それぞれの想像にお任せしたい。

謎その2:アルミンたちの和平交渉は成功したのか?

 P.4の最後のコマからP.8にかけて描かれているのは、アルミンたちが連合国の大使として、和平交渉のために、故郷であるエルディア国へと船で向かっている様子だ。アルミンの他にその場にいるのは、ジャン、ライナー、アニ、コニー、ピークであり、一度は敵味方に分かれた戦士たちが、「地鳴らし」後、再び手を組んでいるということがわかる。

 その様子は、再び世界に平和が訪れることを示唆しているともいえるのだが、彼らの和平交渉が成功したかどうかまでは描かれていない。

 しかし、p.13のカットを見るに、アルミンたちは無事、使命を果たしたといっていいだろう。そこで描かれているのは、エルディアの街が徐々に復興していく様子であり、このことはつまり、和平交渉後しばらくの間は、エルディア国と連合国(あるいはマーレ)との間で戦争が起きていないことを意味している。

謎その3:ミカサのもとに現れた白い鳥が伝えようとしたことは?

 P.9からP.12では、ひとりエルディア国に戻っていたミカサが、エレンがいつも居眠りしていた思い出の木のそばに腰掛けて、過去を振り返っている様子が描かれている(エレンの墓石も、その木の下にある)。

 その時、彼女は、(第1巻のp.13で描かれている)子供の頃に同じ木の下でエレンを起こした日のことを思い出すのだが、それはある意味では、過去へのループの扉が再び開きそうになる瞬間だった。

 ――と、いきなり書いてもなんのことだか意味不明かもしれないが、この「ミカサ・ループ説」については、詳しくは上記のリンク先の記事を読まれたい。簡単に説明すれば、第34巻の終盤でミカサが、山小屋でエレンとふたりで暮らす「ありえたかもしれない未来」の夢を幻視するのだが、それがなんだったのか、はっきりとした説明は作中で描かれていない。

 考えられるのは、エレン、もしくは始祖ユミルが「道」を通じてミカサに見せたビジョンだったか、そうでなければ、ミカサは人生のある期間を何度もループしており、極限状態において「繰り返し経験してきた記憶の一部が甦った」ということなのだと思うのだが――私は後者を採っている。

 で、話をエピローグのミカサに戻すが、そこで彼女は、「ループの始まり」の時点とおぼしき「子供時代にエレンを起こした日」のことを思い出し、「…また あなたに会いたい…」と呟くのだ。これは、前述のような過去へのループの扉が開くという超現実的な表現ではないにしても、少なくとも「過去へ戻りたい」というミカサの強い意志を表している。

 と、その時――どこからともなく白い鳥が飛んできて、はだけていた彼女のマフラー(かつてエレンが巻いてやったマフラーだ)を、嘴を使って器用に巻き直してやる。そして、再び空高く飛び去っていく(白い鳥は、アルミンたちが乗っている船も上空から見守っている)。

 この描写が何を意味しているかといえば、それは間違いなく、「過去との決別」だろう。「白い鳥」とは明らかにエレンの生まれ変わりか分身であり(「マフラーを巻く」という行為でそれをミカサに伝えている)、「空高く飛び去っていく」という行動は、「前を向いて先に進め」という愛する男からの最後のメッセージにほかならない。

 果たしてその想いをミカサが正しく受け止めたかどうか。それは、P.11の最後のコマで描かれている彼女の微笑を見れば、一目瞭然である。

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