『2.5次元文化論』須川亜紀子に訊く、“2.5次元”の可能性 「聖地を訪れたとき、我々は現実と虚構の世界を観ている」

“2.5次元” 現実と虚構のあわい魅惑の世界

「実は“好き”を研究するって、けっこう苦しいよ」

ーーそこでお伺いしたいのですが、ご自身の「2.5次元舞台」初体験はどの作品でしょうか。

須川:「ミュージカル『テニスの王子様』Dream Live 2013」です。以前も、それこそ声優さんが同じ役を演じていた『サクラ大戦歌謡ショウ』シリーズ(1998年~)やミュージカル「HUNTER×HUNTER」(2001年)も観ていたし、グランドミュージカルやストレートプレイ、イギリス時代はウェスト・エンド・シアターといったところにも足を運んでいました。だた、チケット代も高く、自分にとっては観劇はいわば「ハレの日」だったんですね。でも、2.5次元舞台はドレスコードもなく敷居が高いわけでもなく気軽に通える日常だったんです。

 日本での研究を始めた当時で、いろんな方とお会いして話を伺っていたときで、そのなかにはマンガ・アニメの舞台化に抵抗がある方ももちろんおられたんですが、でも実際に観てしまうと魅了されてしまうんですよね。まるで異世界にぽーんと投げ出された感がすごくて、元気ももらえて、すごく衝撃でしたね……。

ーーすてきな体験です!

須川:それこそマンガ・アニメ文化だけでなく、演劇文化やアイドル文化的なところまで波及する、新たな文化がここにある……と実感して。さらにそこには分断がなく同じ文脈で作られていて、それを制作側も受け手側も理解して楽しんでいるということに気付いたときに「これは書かなきゃ!」と思ったんです。

 それも、いきなりミュージカル『テニスの王子様』が生まれたわけではなく、まずはキャラクターに命を吹き込む声優という存在があって、いろいろな試みがあって今に至る、ということを学術的に記すべきだと考えました。研究って、まず現象を整理することから始まるんです……というか、私、年表を作るのが大好きなんですが(笑)。2.5次元に関しても事象を書き出すと自ずと流れが見えてきて、そこに社会的要素を踏まえていくことで、それらが相互作用して「文化」というものができあがっているんだなあ、ということが浮かび上がってくるんです。

ーー情熱を持ちながらも、一歩引いた眼差しを持っています。

須川:好きだから研究したい、という学生はたくさん来るんですが、全員に「実は“好き”を研究するって、けっこう苦しいよ」と伝えています。研究するということで、ただ好き、という視点から離れなければならないことがある。その苦しさを乗り換えられるかどうか、が研究者たれるかどうかの分岐点だと思います。

ーー執筆にあたり日々のインプットをどうされているのでしょうか。

須川:今、「文化庁メディア芸術祭」の審査員を務めさせていただいているので、そこでその年の作品のほとんどを知る機会をいただいていて。あとはエアチェックでほぼすべてのアニメの第一話は観ます。最近はサブスクリプションの配信もあるのでそういったものでまとめて観たりします。

 2.5次元舞台は先日、『あんさんぶるスターズ!エクストラ・ステージ ~Meteor Lights~』を観ました。このシリーズを好きな生徒に薦められて、ずっと観ています。ただ、このコロナ禍で2.5次元舞台だけでなく、いろいろな状況が変わってきているので、それらが先々どう影響していくのかも追うべき題材だと考えています。

ーー最後に一言、お願いします。

須川:今回の本は『ユリイカ  2015年4月臨時増刊号 総特集◎2.5次元 -2次元から立ちあがる新たなエンターテインメント』(青土社)の寄稿や企画から携わらせていただいた『美術手帖―2.5次元文化』、2016年からの青弓社Web連載を通し、自分なりに時間をかけてまとめました。実はこれでも研究者向けではなく、一般向けに書いたつもりです(笑)。なので、「好き」の先が気になる、研究のしかたがわからない、文化誕生の背景を知りたい、という方にはぜひ手にとっていただきたいです。さらにこれまでオタク文化研究は対象が男性ということが多かったのですが、本書では女性ファンの声を多く収録し、いろいろな価値観を記しています。

 なので、まずは目次を開いて気になるところから読んでいただき、そこから関連する項目へと辿り着いてもらえたら、実はいろいろな事象はつながっているという発見や、同じ思いを抱える人がいることに出会えると思います。未だに「こんなものが研究になるのか」と言われてしまう世界ですが、私自身、まだまだ書きたいことがたくさんあります。なので、この一冊はいわば種まきだと思っていて、本書をキッカケに研究の道に一歩、踏み出す方がいたらうれしいです。

須川亜紀子『2.5次元文化論 舞台・キャラクター・ファンダム』(青弓社)
須川亜紀子『2.5次元文化論 舞台・キャラクター・ファンダム』(青弓社)

■書籍情報

『2.5次元文化論 舞台・キャラクター・ファンダム』
著者:須川亜紀子  ぽぷ☆すた 須川亜紀子研究室(http://akikosugawa.2-d.jp/
出版社:青弓社
価格:本体2,000円+税
https://amzn.to/2Swa4ps

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