『シン・エヴァ』もう一つの物語とは? 小説版エヴァが描く“その後の世界”

小説版エヴァが描く“その後の世界”
『エヴァンゲリオンANIMA』2巻(KADOKAWA)
『エヴァンゲリオンANIMA』2巻(KADOKAWA)

 アスカの方は、17歳になって背が伸び、スタイルも良くなって男子たちの視線を集めている。美少女ぞろいで賑やかな展開のストーリー? そうはならず、全身が黒色をした謎のエヴァが月面に現れ、ロンギヌスの槍を放って人類を塩に変える厄災を引き起こし、人類補完計画を逃れた人類を殲滅しようと行動を始める。

 アルマロスと名付けられた黒いエヴァとの戦いの最中、アスカは弐号機と融合して全身の形状を変える。巨大な美少女がエヴァのコスプレをしたような姿をして、暴れ回るビジュアルを想像すると、映像で見たいと思えてくる。ヒカリも姉を塩の柱に変えられた悲しみの中、ユーロ軍に洗脳されてエヴァンゲリオン・EUROII・ウルトビーズに乗せられ、シンジのスーパーエヴァの前に立ちふさがる。

 『:破』から一気に14年後へと舞台が移った『:Q』で、未知のストーリーが繰り広げられ、新鮮さと同時に何が起こっているか分からない不安に駆られた人も多かっただろう。『エヴァンゲリオン ANIMA』にも似たところがあるが、シリアスさの中に笑えるシチュエーションもあって、こんなエヴァもあって良いかもと楽しんでストーリーを追っていける。

 なにしろトウジが副司令代理だ。戦術に長けてもいなければ政治が分かる訳でもないが、持ち前の人当たりの良やくそ度胸でシンジやアスカ、綾波レイたちのやる気を引き出し、ネルフJPNの大人たちとの間を取り持つ。その姿は、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のトウジと少し重なる。映画を見終わった人は読んで比べてみてはいかがだろう。

 意外な姿はマヤも見せてくれる。テレビシリーズでも新劇場版でも、まだ新米といった印象があったマヤは、『:Q』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』では「これだから若い男は」と叱咤する強面の整備長になっていた。『エヴァンゲリオン ANIMA』では行方不明のリツコに代わり、ネルフJPNで科学を受け持ち、ミサトらにも意見を出す積極的なキャラになっている。

 こうしたキャラの変化やエヴァの世界のその後が、カラー原作の元に描かれている小説なら、アニメが終わってぽっかり浮かんだ喪失感を埋められるかもしれない。今後も同様に、いろいろなサイドストーリーが展開されていく可能性もある中、キャラクターデザインを手がけた貞本義行によるマンガ版とはまた違う、同じように作品世界を知り尽くしたスタッフによるアナザー・エヴァを、まずはお試しあれ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書誌情報
『エヴァンゲリオン ANIMA』全5巻(DENGEKI HOBBY BOOKS)
企画・原案・著者:山下いくと
企画・原案・編集:柏原康雄
原著:カラー
出版社:KADOKAWA

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