『アイシールド21』『火ノ丸相撲』『あひるの空』主人公の共通点とは? スポ根漫画が描く、欠点を武器にする方法

スポ根漫画の主人公の共通点とは?

 スポーツに必要な要素は努力をすれば伸ばせると前述したが、これに唯一当てはまらないもの、それが「身長」だ。身長の低さ自体は、どれだけ前向きで努力家な主人公でも克服不可能なものである。つまり「努力家」という主人公には必須のキャラ付けに、ただ1つ抵抗できる要素「小柄な体格」が壁となることで、作品を数段レベルアップさせているのだ。

 またリアルな世界を描くスポーツ漫画と言っても、もちろん創作物であることには変わりない。読者が作品を面白いと感じるか否かも、「小柄な主人公」は大きな役割を果たしている。「全ての動きを高いレベルでこなす万能型のチーム」と「荒削りだがここ1番の破壊力が凄まじい爆発型のチーム」では、どちらの方が見ていて面白いか。漫画作品であることを前提に言えば、圧倒的に後者だろう。現にスポ根作品では一芸に秀でた荒削りの主人公チームが、格上の王者相手に死闘を繰り広げる勇姿が、幾度となく描かれた。克服しようのない短所を持つキャラクターは、1つの能力が突出したスペシャリストとして描きやすいのだ。

 アメフト漫画の金字塔『アイシールド21』の主人公・小早川瀬那は、チビでヒョロヒョロのいじめられっ子だ。度胸もなく筋力もない瀬那の唯一にして最強の武器が、パシりによって鍛えられた「スピード」だった。そして瀬那の所属する泥門デビルバッツには、彼以外にも「ノーコンなキャッチの達人」や「鈍足なラインの要」、「凡才な天才」など様々なスペシャリストが所属していた。一見ちぐはぐなように見えるチームだが、噛み合ったときの爆発力は凄まじい。その最強レベルの攻撃力で強者に肉迫していく姿を、手に汗握りながら見守った読者も多いだろう。

 主人公が何でも卒なくこなす弱点のない万能型であれば、チームを「スペシャリストの集団」として描くのは難しい。その点「小柄な主人公」は1つの明確な弱点を見せ、それに相対するように秀でた部分を描くことで、短所を抱えたスペシャリストとして表現できる。そして一芸に秀でた小柄な主人公の存在が、“チーム全体”をトリッキーで面白い集団に仕上げているのである。

 スポーツ選手にとって、重要なファクターとなる身長に恵まれなかった主人公達。しかし彼らは、漫画自体を盛り上げるための重大な役割を担っていた。身長に恵まれなくとも諦めずに強大なライバルに向かっていく姿は、我々に勇気を与えてくれる。今後もスポーツ漫画界を盛り上げる、新たな「小柄な主人公」の登場に注目したい。

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