『鋼の錬金術師』スカーはいかに負の連鎖を断ち切った? 復讐鬼が辿った運命

『ハガレン』スカーが負の連鎖を断ち切る

 2001年から約10年にわたって「月刊少年ガンガン」で連載された荒川弘『鋼の錬金術師』。アニメ化だけではなく、実写映画、ゲーム、ドラマCDとさまざまなメディアミックスもなされ、多くのファンを魅了した。

 主人公・エドたちの前にはさまざまな「強い敵」が現れたが、その中でも特に存在感を放っているのが傷の男(スカー)だ。イシュヴァール人で、顔には大きな傷、右手には異様な模様の入れ墨が入っている。国家錬金術師を憎んでおり、イシュヴァールでの戦いに関わっているか否か関係なく殺して回っていた。エドも運悪く鉢合わせて以来、その標的となっている。そして、ただの敵にとどまらず物語の中において重要な役割を担っている人物でもある。

闇雲に国家錬金術師を殺す復讐鬼

 ロイやリサといった政府側の人間の心にも大きな傷を負わせたイシュヴァールの戦い。生き残ったイシュヴァール人にとっては「許せない」の一言では片付けられない憎しみを持った者がいた。スカーもそのひとりだ。多くの仲間を失い、復讐のためだけに生きている。本当の名前も捨てた。本来は穏やかな性格だったが、殺す術を手に入れ、憎しみに狂い、復讐鬼となってしまった。

 そんなスカーはエドたちが、小さな友人を失い、ショックを受けている最中に出会った。国家錬金術師である父、タッカーによってキメラに変えられてしまったニーナ。スカーがそのタッカーと、ニーナを殺害したあとに出会ったのがエドだった。「神の代行者として裁きを下す者なり」とエドだけでなく、その場に助けにやってきたロイ・マスタングたちも殺しの標的とする。国家錬金術師であるというだけで殺す。強い信念を持って殺害を繰り返すその姿は恐怖以外の何者でもない。

復讐鬼を生んだのは戦争だった

 スカーはもともと武僧だった。家族と共に暮らしていたが、内乱へと巻き込まれていくことになる。そんな彼の兄は国家錬金術師たちに対抗すべく錬金術の研究に没頭していたが、スカーは懐疑的だった。やがて、兄の右腕には分解、左手には再構築の錬成陣が入れ墨として入り、兄の周りには「血には血の報いを」という者たちが取り巻くようになっていたのだ。

 錬金術は幸福を生まない、と錬金術に対する嫌悪感を強めていく中で、政府からの攻撃に遭ったスカー。兄がかばってくれたおかげで命は取り留めるが、右腕を失う重症を負う。兄は、分解の錬成陣が彫られた腕をスカーに移植することを選んだ。

 スカーは命を取り留めるが、意識が戻った瞬間に怒りと錯乱で治療に当たっていた医師、ロックベル夫妻――ウィンリィの両親を殺してしまう。ここから、スカーの復讐の道が始まってしまった。移植された「分解」で人間を壊し、殺し続けた。

 スカーの過去、そしてイシュヴァールの戦いが描かれている15巻で、作者の荒川弘は「本編を描くにあたり第二次世界大戦で前線を経験した方々の話を聴いて回った」とコメントしている。取材によってか、ロイやリサ、そしてスカーが吐露している苦しみには、リアリティがあり、深く考え込んでしまう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる