写真家・石川直樹が見つめる、”東京”の変化 「いまこの写真集を出すことに意味があると思った」

石川直樹、”東京”を撮る意味

ーー通常のカラーページ以外にもモノクロページや黄色い紙を使ったページがあったり、タテヨコを解放したようなレイアウトだったり、見た目にも面白い写真集ですが、この制作過程についてお聞かせください。

石川 今回、デザイナーの坂脇慶さんと初めて仕事をしました。ラッパーの環ROYくんが新しいCDを出したときに、その装丁を坂脇さんが手がけていることを聞いたりして、以前から名前だけは知っていました。制作段階で編集者の九龍ジョーさんからも坂脇さんのお名前が出てきたときに、いいなぁと思って、ご一緒させていただくことになりました。

 初対面のとき、物静かな感じだけど、なんか面白い人かもしれないと思って「好きなようにやってください」とお願いをしました。もう、遠慮もいらないし、トリミングでも何でもやっていいし、どんなふうにしてもいいですよと。そうしたら構成まで考えてくれて、こんなふうに上がってきました。自分でも驚きがあって、お願いしてよかったなと思っています。

『東京 ぼくの生まれた街』より

 掲載している写真は、20年前のものから最近のものまでたくさん入っていますので、写っている人の服装や建物から何となくそのときの時代の空気が滲みだしてくる感じが、写真の面白さだと思います。変わらない風景もあれば、激変した風景もあるし、激変まで行かずとも微妙に立ちのぼってくる感じもあって、東京は面白いですね。また僕の先生である森山大道さんや坂口恭平くん、前野健太さんなどのポートレートも入っています。

 写真は、フィルム(中判カメラ)で撮ったものが一番多いです。その他、デジタルもありますし、写ルンですで撮った写真、元のネガが残っていないプリントのみの写真など、色々集めました。

 この写真集は東京を撮ったものというよりも、自分と東京との関わりを撮ったものなので、それらをまとめる作業は、自分の中で東京という場所を再認識する過程そのものでもありました。人の数だけ様々な「東京」があるわけですが、ぼくの移動範囲は限られていて、そこから自分の東京イメージが生まれている。表紙の裏には地図が掲載されていて、そこには撮影した街の名前を手書きで記しています。極端な偏りも当然あって、でもこれが自分の中の東京マップという感じです。

『東京 ぼくの生まれた街』より

「知ってるつもり」になると、写真は撮れなくなってしまう

ーー表現者として未知なる世界へアプローチし続ける意識と、どのようにモチベーションを保っているのかについてお聞かせください。

石川 このごろ、時間について考えることが多かったんです。たとえば昨年2020年は、コロナ禍のために無為に消費されていく時間がたくさんありました。若い頃は時間が流れるのが遅く、年齢を重ねるにつれてどんどん時間が矢のように過ぎ去っていくのはなぜなのか。心理学的にもそう言われているようですが、実感としてもそうですよね。子どもの頃は、一年が早かったなあ、なんていう感慨はなかったので。赤ちゃんの頃は、いろいろなことに日々驚いて、手で触ったり、投げたり、舐めたり、いろいろなことをしながら世界を知覚しています。そのように世界と向き合っていたら、一日が早く過ぎ去るなんてことはない。

 子どもたちにとっては多くのことが初めての経験だったりして、それは羨ましくもあり、できれば歳をとっても初めて出会う世界として目の前の風景を認識できたらいいなあ、と思うことがあります。むしろそうでなければ、あらゆることに反応できなくなってしまうし、シャッターも切れなくなってしまいますので、常にいろいろなことに驚いていたい。

 そのためには「知っているつもり」にならないようにしたい、と心がけています。知っているつもりになって、いろいろなものを切り捨てていっちゃうと、何も反応もしないまま時間が過ぎ去って、いつのまにか年老いて、写真も撮れないし、つまらないなあと。

 僕は、自分が出会ったときの驚きや反応でシャッターを切っています。それは山へ行ったときも都市でも人物を撮影するときでも、変わりません。どんどん変化していく東京も、人間が作りだしてきた風景であり、極めて人工的な環境です。それを拒絶するのではなく、受け入れるというか、ひたすらしつこく見続けることが必要ですね。見続けながら、言葉にならない出会いや発見を繰り返し、知ってるつもりにならずに世界を知覚し、どうにかシャッターを切り続けたいと思います。

ーーあらためて2020年を振り返って、どのような一年でしたか? また2021年以降の展望についてお聞かせください。

石川 「これだけ旅をしないなんて、大変でしょ?」と言われたりしますが、断絶されている感じは全然しなかった。外出自粛期間中に試みた自宅でのカメラ・オブスキュラにしても、この写真集にしても、2020年という一年がなかったらやらなかったと思いますし、新しいことに踏み出せた一年でもありました。

 僕にとって旅はインプットそのものなんですが、これまでは旅から旅でずっと突っ走ってきたので、振り返る時間を持てたのはすごく大きかった。アウトプットとして、例年よりも多くの本を出すことができましたし、いろいろな可能性を実践するための素地ができました。そうした意味では、良い一年だったと思っています。

 2021年は、これまで2度登頂を断念したカラコルムのK2にまた登りに行きたいですね。僕は43歳になったんですけど、植村直己さんをはじめ、有名な冒険家が何人も43歳で亡くなっているんです。43歳はいわば魔の年齢で、積み重ねた経験で脂がのっているときでもありながら、体力は少しずつ衰えてきます。なので、自分も十分に気をつけて新しいチャレンジに出かけたいと思っています。

著者プロフィール

石川直樹(いしかわ・なおき)
1977年東京生まれ。写真家。2008年『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)で日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞を受賞。2011年『CORONA』(青土社)で土門拳賞を受賞。2020年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)で日本写真協会賞作家賞を受賞。写真の他、『最後の冒険家』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊に『地上に星座をつくる』(新潮社)など。

■書籍情報
『東京 ぼくの生まれた街』
著者:石川直樹
出版社:エランド・プレス
発売日:12月21日
定価:2500円+税
サイトURL:https://errandpress.com/info/ep009/



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