GEZAN マヒトが語る、本に見出した可能性 「文明に対する反抗のスタンスでもある」
声のないシンガロング
ーーアメリカツアー中に「Absolutely Imagination」でシンガロングが起きたときのエピソードがあり、「音楽の可能性にシンプルに感動した」とありましたが、そういった可能性は文章にも見出せそうですか?
マヒト:どうなんだろう。シンガロングにかわる何か、この時代を共有する何か……『鬼滅の刃』とか書いていたら時代を動かしてる感覚とかありそうですよね。
ーー存在そのものとして信じてはいるけど、自分自身の中ではどういう形かわからないということですかね。
マヒト:顔も知らない誰かが、寝る前にちょっとずつ本を読むとか、そういう意味での見えない連帯はあると思っています。『ひかりぼっち』は自分がひかりぼっちだというよりは、いろいろな場所にいる顔も知らないひかりぼっち達へというイメージで書きました。だからそういう声のないシンガロングみたいなものは静かにあると思うんですけど、ただそれはやっぱり目には見えないから、イメージしづらいですね。
ーー反応がダイレクトに返ってくる音楽とは違いますもんね。小説家・柳美里さんの『ゴールドラッシュ』の話も出てきますが、柳美里さんや他の作家に影響を受けた部分があれば教えてください。
マヒト:柳美里さんの文章からは、皮膚感覚みたいなものが切実に感じられて、初めて読んだときから好きです。ちゃんと生き物の匂いが行間からする。これから時代が未来的なほうに進めば進むほど、生き物とか皮膚感覚とか温度みたいなものが重要視されていくと思うので、柳美里さんが「全米図書賞」の翻訳文学部門を受賞したのは、そういう目線でも語れる気がする。いつか会ってみたいですね。
ーー温度を感じる文章に魅力を感じたと。
マヒト:うん、やはり生きているということはすごい情報量だし、自分の中に混然一体とあるカオスも成立させて存在しているわけじゃないですか。なんで生まれてきたかも分からないし、ただご飯を食べて、コーヒー飲んで喋っているだけなんだけど、生きることはそれだけですごいことだなと思っています。
動物の内臓って構造自体がめちゃくちゃカオスで、体内にこんなえぐいものを抱えながら、みんな頑張って化粧をしたり、取り繕って流行りの髪型にしたりしているけど、こんなえぐいものをみんな腹の下に抱えて、それぞれがしおらしい顔をして人間をやっているのが面白い。そんなカオスな設計をした神様と呼ばれる人は相当な変態だぞって思ったし、そのカオスを抱えてそこに立っているっていうことがすごいことなんだなと。だからやっぱり生物に対するリスペクトはこれからもテーマになっていくんだろうなと思います。
パソコンで音楽を作ったり、AIがDJをするソフトが実験的に出たりとか、それはすごく理にかなっていると思うんですよ。Apple musicの膨大なデータから1曲目をかけて、オーディエンスのリアクションからデータを取って、今日のオーディエンスはヒップホップよりテクノが好きみたいだから、じゃあテクノの曲を繋ごう、こういう音楽が好きな層は、これも好きなはずだってね。AIに任せて処方箋みたいに音楽を作ること、人が欲しているものを欲している形で表すこと。これからの時代、文明がそっちに開いていくことは理解できるんです。でもそうなればなるほど、ここに今抱えている内臓のカオスをどう扱うの? という疑問が残る。今この曲を聴きたいと頭では思っていて、この情報に対してAIが次の曲をかけるのは理解できるけど、脳みそじゃなくて、内臓が欲しているもの、心が欲しているもの、思い出が欲しているものは全く別物だと思う。
実は人間の身体のあらゆる場所にいろんな意思があるはずで、好きな人に触れられてすごく気持ちいいのは、別に脳の話じゃない。手で撫でてもらったら、手で撫でてもらった箇所が気持ちいいと感じる、そこの意思だと思うし。AIが扱えるのは脳みその、ある一点だけであって、真っ赤なこの内臓の意思とかは無視されている気がする。だから俺はそこ一点に向けて音を鳴らしたい。それは文章に関してもそうで、ただ生き物として今を生きているという、最もベーシックな部分を応援していたいし、関わっていたい。別にポケットティッシュみたいな音楽とか文章を作りたいわけじゃないんですよ。ポケットティッシュは涙が出たから拭くために必要でしょ? でもそうではなくて綺麗な手ぬぐいみたいな何に使ったらいいか分からないけど、何に使おう? 飾ろうかな? 涙を拭いてもいいかな? と自分で使い方を考えられるようなものを作りたい。
ーー豊田利晃監督の『破壊の日』にも出演されていて、本の中にもエピソードが出てきますが、映画作品の影響はどのくらいありますか?
マヒト:はっきり言って学校の先生から学んだことは1個もなくて、映画から学んだことは本当にたくさんある。悪い奴だけど、こいつかっこいいとか、こいつどうしようもないのに、なんか俺は好きだなっていう感覚。そういう善悪や、何を魅力的に感じるかの基準が、世間一般の常識と入れ替わったりしうるっていうのは映画が教えてくれたこと。でもそういう感覚で生きている人はトラブりやすいんですよね。明らかに価値基準が一般の人と比べてズレやすいから。本当の意味での教育は映画のほうがよっぽど恩恵を受けている気がしていて、今までいっぱい観てきたなかで、好きな映画はレオス·カラックスの『ポンヌフの恋人』。何が好きかもよく分からないけど一生好きですね。ーーこのエッセイの中の印象的な言葉が「どの文章も遺書として切り取ってくれてもかまわない。とにかく証を残していくことは遺書を書くことである」という言葉でした。文章を書くという行為をどう捉えているか聞かせてください。
マヒト:その一瞬、ポイントではなく、すべてのものに血が流れていて、温度があって全部が繋がっている感覚があるから「どの文章も遺書として切り取ってくれてもかまわない」という言葉が出てきたのだと思います。自分がどのタイミングで死ぬかもわからないけど、いつ死んでもいいようにやってるんですよね。でも文章を書くという行為には、「俯瞰」と「主観」の話と近いけど、一貫して変わらない部分とその時期にしかないトーンみたいなものがあります。それは『ひかりぼっち』を2年間書いて、最初の文体と最後の文体が全然違うということも含めて思った。この本が10年後、20年後に見ると全く違うコントラストをしているかもしれない。やっぱり時間を記録する、記憶を記録するということが言葉にできることだと思うから。
あとは、これから進んでいく文明に対する反抗のスタンスでもある。今日の話全部に通ずるけど、その時代と一緒に歩きながらも、常にカウンターに立っていたいという意味でも、本にすることの意義があると思いました。やっぱり本は文字だけどデータではないし、自分が読み進めると終わりに向かっていく。そういうものに自分は惹かれるのかなと。これが『ひかりぼっち』をやってみた感想ですね。
■書籍情報『ひかりぼっち』
著者:マヒトゥ・ザ・ピーポー
出版社:イースト・プレス
発売日:発売中
定価:(本体1.500円+税)
https://www.amazon.co.jp/dp/4781619290
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