橘ケンチが語る、日本酒擬人化マンガ『あらばしり』の狙い 「個性や味の違いがあって面白いということを伝えたい」

橘ケンチが語る『あらばしり』の狙い

蔵によって仕込み方も考え方も違う

――ご自分の日本酒についての活動が人々に響いてる、と感じることは?

橘:まだ世間一般で盛り上がっているという感覚はありませんが、LDHのファンの方々の中では僕の活動への認識が少しずつ定着している気がします。イベントにも多くの応募があるので、内側から輪が広がっているのかなと思います。

――毎回イベントで出てくる食事もおしゃれですよね。どんな料理が日本酒に合うのでしょう。

橘:日本酒を飲むだけじゃなく、ペアリングで提案してみると別の発見があるんです。そこも重要なポイントじゃないのかなと。LDH kitchenで日本酒のイベントを開催する時の料理はシェフにも提案していただいてます。

 食べ合わせに関してはプラス×プラス、マイナス×マイナスという感覚があるんですよ。要は甘いもの×甘いもの、酸っぱいもの×酸っぱいもの、辛いもの×辛いものは同調し合う。あとは甘いもの×辛いもので後味をきれいに切る、というか。例えば新潟では刺身を醤油で食べて、生臭さを淡麗辛口でクッと切るみたいなイメージだと思います。

 最近は「味の成分同士を掛け合わせてプラスアルファを生む」という考えが増えている気がします。僕は甘辛い鯛の煮付けに酸味の強いお酒を合わせるのが美味しいだろうなと体験のデータで考えたりすることが多いですね。僕はそこまで分かりませんが、化学式的にも合致するところがあると思います。詳しい人は「しいたけのグアニル酸が、こっちのイノシン酸と合う」と、化学式でペアリングを考えるんですよ。

――そういえば橘さんが日本酒と一緒に楽しむことをお勧めする料理には、麻婆豆腐とか和食以外のものも多いですよね。

橘:昔から提案してますね。僕が麻婆豆腐を大好きなのもありますが(笑)、酸味の強い日本酒と合うと思うんです。中華料理と日本酒の組み合わせは日々やってますよ。若い蔵元が作っている個性的な日本酒とかは面白いものが多いので、王道な和食はもちろん中華とかイタリアンでも合うかもしれません。

――他にも酒蔵を回って得た新しい視点はあります?

橘:蔵によって大事にしているところが違うということはよくわかりました。例えば、設備に投資するところもあれば、人や立地を重視するところもあって、それは蔵元さんの趣味趣向や経営感覚。その違いを見られるのが一番面白いですね。「この蔵はこれを重視しているから、こういう味になるのか!」という発見があります。機械をたくさん使っているのと、手仕込みが多いのとではまた違う味わいになる気がします。

 「この蔵はこういう層に好まれてる」みたいなスタイルも色々です。山梨の北杜市にある七賢という蔵は近くにサントリーの白州蒸留所が近いこともあって、観光客が年間2万人ほど来るそうです。蔵見学も出来て、帰りは隣の店でお酒を買って帰るというながれがしっかりできている。だから東京に出荷しなくても、自分のテリトリーで勝負できるから強いですよね。

白糸酒造にて酒造りをする橘ケンチ

――これまでコンスタントに4つの蔵とコラボ日本酒を作ってこられましたが、実際に作って学んだこともあれば教えてください。

橘:僕は素人なので蔵人さんに混ざって教えてもらいながら作る感じです。昔、居酒屋でバイトしていた頃の感覚が蘇る感じで楽しいんですよね(笑)。実際作ってみると愛着が湧きますし、工程も分かるので持論に説得力が生まれている気がします。

 個人的に大事だと思うのは酒母と麹。酒母はお酒のスタートになるものですね。最初は小さい容器で仕込んで、酵母を少しずつ培養していくんです。いきなり増やすと酵母が死んでしまうので。『新政』は「生酛造り」という特殊な仕込みをするんですよ。それは現代的なやり方に比べて3、4倍の時間がかかりますが、それをブランドとして作りあげたから今の『新政』がある。

 やっぱり蔵によって仕込み方も考え方も違うので、その多様性は受け入れていかなきゃと思いました。あとは同じ蔵でも毎年行くたびに表情が違いますから、進化も見られるのがいいですね。あとは単純に関係が深くなるのも嬉しいです。

『橘6513』

――12月24日には福岡の白糸酒造とコラボした『橘6513』が発売されますね。

橘:去年作った『橘六五』よりも低アルコールであり、13パーセントになっています。日本酒は15から16パーセントが標準なんですが、最近は13から14パーセントものがトレンドになってきているんです。飲み口も軽いですし、飲みやすいので今回はそれに挑戦しました。出来はめちゃくちゃ良かったですね。水みたいに飲めますよ。ぜひ飲んでみてください。

――コロナ禍による日本酒業界へのダメージについて、どの様にご覧になっていましたか。

橘:大変だという話は聞いていました。中には前年比8割減、ということもあると聞きましたし。飲食店が営業できなくなると、一般よりも飲食店向けにたくさん降ろしていたお蔵さんは厳しいはすですし、家で飲まれるにしても限界はありますから。エンタメと同じく、これを機に色々変わっていくように思います。

 でも日本酒の文化はこれから海外への輸出量も増えて世界中で飲まれると思います。聞くところによると、アメリカやヨーロッパ、香港などで人気があるそうです。フランスではフランス料理のお店で日本酒が出てくるというところも増えているとか。輸出額は年々、右肩上がりで増えているので、この傾向はしばらく続くのではないでしょうか。

 コラボボトルやマンガを発表するのもそうですし、僕もできる限り応援させてもらいたいと思ってます。味に関してはプロが作るべきで、僕のやるべきことはプロデュースなどの形で魅力を届けることかなと。いかに自分の頭を絞って、色々なアイデアで展開していけるか。マンガを起点に今後も考えてやっていきたいと思います。

■マンガ『あらばしり』連載情報
漫画:タクミユウ 
企画原案:橘ケンチ(EXILE/EXILE THE SECOND) 平沼紀久
掲載媒体:少年マガジン公式無料漫画アプリ『マガジンポケット』
公開日:2020年12月18日よりスタート
公式HP:https://pocket.shonenmagazine.com

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