橘ケンチが語る、日本酒擬人化マンガ『あらばしり』の狙い 「個性や味の違いがあって面白いということを伝えたい」
EXILE/EXILE THE SECONDの橘ケンチが企画原案を務めるマンガ『あらばしり』が12月18日より、少年マガジン公式無料マンガアプリ「マガジンポケット」で連載開始となった。ストーリーは看板もなく、必要としている人にしか訪れられない謎の店を舞台に、日本酒を擬人化したキャラクターたちが活躍するというもの。監修は、橘とともに『HiGH&LOW』シリーズの脚本や監督でも知られる俳優の平沼紀久が、作画はタクミユウが担当している。
これまで日本酒をライフワークとしてきた橘だが、なぜ今回この様な斬新な企画をプロデュースしたのだろうか。これまでの活動を踏まえつつ、その背景や工夫を存分に語ってもらった。(小池直也)
蔵元さんの性格や歴史、味わいを知ったうえでキャラに投影
――橘ケンチさんはこれまで、様々な形で日本酒の魅力を伝える活動をしてきましたが、今回のマンガという展開は良い意味で意外でした。どのような経緯でこの企画が実現したのでしょうか?
橘:これまで酒蔵さんとコラボしたボトルも作りましたが、もっと自分の本業であるエンタテインメントの領域でも盛り上げていきたいと考えていました。日本には1万銘柄以上の日本酒がありますが、あまり詳しくない方からすると、どれが良いのかが分からない。美味しかったら美味しい、不味かったら不味いという判断が多いと感じるので「こういう銘柄があって、こういう個性や味の違いがあって面白い」ということを伝えたかったんです。そこで、マンガという手法に着目しました。
最初は日本酒に背番号を付けようと思ったんですよ(笑)。『新政』だったら六号酵母だから6番で『真澄』は七号酵母だから7番、『十四代』が14番とか。スポーツだったらスター選手のユニフォームの番号が好きになるじゃないですか。同じように日本酒の銘柄がスターになっていけば面白いのかなと。
そんなところから構想が始まって「だったら銘柄を擬人化してみたらどうだろう?」と思ったんです。酒質を投影したキャラクターは、例えばフルーティで軽やかなものだったらサラッとした美青年だったり。そういう人物が共演したら面白そうだなと考えて、色々な人と相談しながら企画していったんです。異なる入り口から入って日本酒にたどり着いてほしい、という気持ちもありましたね。
――マンガ化に当たって、こだわった点などは?橘:僕が実際に各蔵を伺ったり、味わってみたり、蔵元さんの性格や歴史、味わいを知ったうえでキャラに投影したのですが、それを共有するのに苦労しました。チームの方々と蔵に行ったり、飲んだりしながら、同じ視点でキャラを見てもらうことが最初の壁だったように感じます。あとはストーリーをどう肉付けしていくかは悩みましたね。最終的に悩みを抱えている女性のところに、色々な銘柄のキャラが代わる代わるやって来て問題を解決する、という物語になりました。
――昨今はグルメマンガが人気ですが、その王道的な展開を踏襲しつつ、『刀剣乱舞』シリーズのような面白さもありますね。
橘:そうですね。あとは『神の雫』や『笑ゥせぇるすまん』など他の作品からもインスピレーションをもらっているかもしれません。僕はスポ根マンガが好きなのですが、そういう点は赤武というガッチリ系のキャラクターに反映されたかなと思います。
――擬人化するお酒はどのように選んだのでしょうか?
橘:今回選んだ6銘柄は日本酒好きの間では知られている蔵のお酒ですが、個人的にニューカマーみたいなイメージのあるお酒にスポットを当てました。それを一般に紹介すれば日本酒業界の勢いが増すかなと。一番最初に決めていたのは『一歩己』でした。2年前くらいに飲んで美味しかったのと「作り手はまだ若い人だよ」とお店の方に教えてもらったのも印象に残っていました。そこまで派手ではないですが、バランスが良いので、そばに置いておきたい1本。それがメインで、周りに個性豊かなキャラが散りばめられていると構成としては面白そうだと思いました。
『一歩己』という名前も好きなんです。ネーミングって大事じゃないですか。今回の6銘柄はその点からも擬人化しやすいし、好んでもらえそうだということも考えました。例えば『田中六五』も大好きなんですが「田中くん」だったらキャラクターとしては普通っぽいイメージになりますよね?(笑)。あと『村祐』はレザーの革ジャンとか着てバイクに乗っているんですが、蔵元さんがそういう方なんですよね。キャラの性格はそういうところから来ていたりもします。
――共同監修には『HiGH&LOW』シリーズの脚本を手がける平沼紀久さんが参加しています。どんなやりとりをしましたか?
橘:紀さんは一緒に企画を作りやすい方なので、アイデアが浮かんだら紀さんに連絡します。このマンガに関しても彼に相談して、講談社の編集者さんを紹介していただいて、早々に話が進んだのは大きかったです。準備は1年半くらい前からスタートしました。でもいくら企画を練っても、形にするのは漫画家のタクミユウ先生ですから。描く時間も必要ですし「マンガが半年でできる訳がない」ということを改めて学びました。
タクミユウ先生は理解力が高いし、頭の回転が早くて、受け皿も広いんです。打ち合わせを兼ねて3、4回ほど飲ませて頂いたのですが、詳しく説明しなくても話のなかで全部汲み取って、仕上げてくださいました。先生の絵が好きだったので「絶対この方に書いてもらいたい」と。人物を綺麗でセクシーに描けるところが魅力だと思います。カッコ良く日本酒を飲める男性の絵が理想だったので、自分のツボに合うなと感じています。
――「特に女性に読んでほしい」という狙いがあるとのことですが、この意図とは何でしょう。
橘:エンタメに関してもそうですが、良いものを広めてくれるのは特に女性だと思うんですよ。だから女性に読んでいただいて、その流れで日本酒も知っていただいて、美味しいと広めてほしいですね。もちろん世代や性別を問わず読んでいただける内容だと思いますので、男性にも読んでほしいと思ってます。